鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「さっちゃんとけんちゃんは今日もイってる」3(新刊)

  • 葵日向「さっちゃんとけんちゃんは今日もイってる」3

2024年4月18日刊。発売日に速攻で購入。

けんちゃんは結構ヤバイところがあるなあと思う。一巻ではさっちゃんに媚薬を飲ませようとするエピソードがあったが、本巻冒頭話では催眠術にかけようとする。サシだとさっちゃんにいいようにやられてしまうから、ハンディをつけたい気持ちはわからなくはないが、薬とか術とかで女の子の自由を奪ってコトに及ぶというのはいかがなものか。相手がさっちゃん限定ならアリではあろうが。

けんちゃんは、このままでは身が持たないと一週間のエッチ禁止令を出す。結局さっちゃんに押し切られて一日ももたないんだけど。それで、不思議なのは、さっちゃんは生理あるよね? 生理中はやらない(できない)よね? それが一ヵ月のうち一週間から10日くらいあるよね? 普通のカップルは、月に一週間くらいは禁欲期間を否が応でも設けざるを得ないのだが……。まあさっちゃんなら、生理中でもオッケーと言いそうだが、仮に当人がよくても、ベッドは血だらけになるし、それはバスタオルを敷いたくらいでは防げないんだよなぁ……。

それにしても、コスプレしたまま寝てしまうけんちゃんも大概だが、ペニバンをしたまま寝てしまうさっちゃんも大概だ。

「戦国小町苦労譚」11

  • 原作・夾竹桃、平沢下戸、作画・沢田一「戦国小町苦労譚 農耕戯画」11(アース・スターコミックス)

2022年5月22日刊。「デジタル版コミックアース☆スター」2021年11月~2022年3月掲載。

森可成は瀕死の重傷を負うが、回復した。しかし静子は敗戦の責任を感じ(実際には、初めて人を殺したストレスから?)高熱を発し倒れてしまう。信長から静養を命じられ、本巻では静子の発明(?)は鉈の変形ぐらい(これは勝蔵こと森長可に脳天かち割り鉈として活用された)。勝蔵は、命に逆らう村や寺を片っ端から焼き払い、皆殺しにするなど、史実以上に凶暴に暴れまわっている。静子の前では可愛いが。

体力の回復した静子は、六角軍と戦う徳川軍へ援軍として出陣。忠勝と再会。

しかし信長包囲網は思ったより強力で、信長は追い詰められていく。信長配下の将たちは、周囲の勢力から次々に調略の手が伸びる。そして近衛前久の元には「越後の龍」が……

未完の佳作「推しキャラと結婚する話」「レンタル彼女を借りた女の話」「2人が心中するまでの話」

未完の佳作を三作まとめて紹介。

  • 矢薙「推しキャラと結婚する話」
  • 矢薙「レンタル彼女を借りた女の話」
  • 矢薙「2人が心中するまでの話」

「推しキャラと結婚する話」は2022年3月29日刊、63ページ。
「レンタル彼女を借りた女の話」は2022年4月21日刊、53ページ。
「2人が心中するまでの話」は2022年6月9日刊、82ページ。

その作品も種々の事情で完成に至らず、冒頭の数ページ以外はすべてネーム(下書き)のままでの公表となっている。これがどれも抜群に面白い。このままで終わりはいかにも惜しい。きちんと作画されれば作品の価値は何倍にもなるだろうに。

恐らく作者自身にはもう絵を完成させる気が(時間も)ないのだろう。腕に覚えのあるアマチュア絵描きが名乗りを上げないものか。



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「幸福の王子」

2009年4月7日刊。文庫書き下ろし。「ベストフレンド」「正義の味方」カサブランカ・ハウス」「GO TO HELL」「水玉少女」「幸福の王子」の6編所収。主人公の年齢や立場はさまざまだが、すべて女性という点で共通している(「GO TO HELL」は微妙)。

蔵書の再読。第一話を読み終わったところでかつて読んだ記憶が蘇り、読み進めるのに躊躇したが、読了した。読後の感想としてはとてもよかった。

「正義の味方」は自分の子どもがいじめに加担していることを知った母親を描いている。当人は罪悪感を持っておらず、周囲も事件を隠蔽しようとする。

我が家には子どもがいない。いる人を羨ましく思ったことがないではないが、もし子が生まれていたら自分は親たりえたか、と考えると「無理無理無理」と思ってしまう。それは、何の問題もなく素直に育ってくれる可能性は高くはないからだ。いじめに遭って不登校になったりしても困るが、逆に、いじめっ子になったらどうしよう。そして相手が自殺したりしたら。自分にできることは何もなく、ただただ呆然とするしかないのではないか。本作も、親がどうしたらいいかわからないところで終わっており、救いがない。

「GO TO HELL」では未成年と援助交際(現在ならパパ活か)をする夫と、それに気づいた妻のやりとりが描かれる。夫も酷いと思うが、妻の態度も同情できない。

この二編はいろいろ考えさせられ、小説としての出来が悪いわけではないが、後味の悪い作品ではある。一方、それに挟まれた「カサブランカ・ハウス」は、マンションの自治会役員を押し付けられ、最初はイヤイヤ参加していたものの、だんだん意義に目覚めやる気を出していく女性の話で、とても興味深い。心と部屋のドアを固く閉じて周囲の介入を許さなかった「芳川さん」という年輩の女性が、主人公に(のみ)徐々に気を許すようになり、最後はこの女性に励まされて人生の大きな決断をするところはよかった。

「水玉少女」はトランス女性だったということかな。

冒頭の「ベストフレンド」とラストを飾る「幸福の王子」はラブストーリー。ラブストーリーのつもりで書いたのかどうかはわからないが、一級品のラブストーリー。だから一冊読み終わったあとの読後感はとてもいい。圭ちゃんは遺産相続を放棄することなく、受け取ればよかったと思うがな。看病も介護もせず、資産が転がり込んでくるのを待っていただけの弟にくれてやることはなかった。それは雪ちゃんの遺志を継ぐことでもあると思うが……



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「百面装のシノブさん」

  • 原作・矢薙、作画・きたむらましゅう「百面装のシノブさん」

2020年1月2日刊。連作短編集。68ページ。

テイストは矢薙なのだがやけに絵がきれいだなと思ったら、本作は作画が別人だった。しかもきたむらましゅう。「ここほれ墓穴ちゃん」を気に入って全巻持っているが、感想を書こう書こうと思いつつ今日まで書いていなかったのは残念。

主人公のダイスケの家系に代々仕えている忍者シノブ。「若」を守るべく常日頃寄り添っているのだが……

シノブはダイスケが好きだが、特殊能力と特殊思考回路を持っているがためにその行動は突飛なものとなり、ダイスケが苦悩するという忍者系ラブコメ



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「悪霊を退治する人の話」(全2巻)

  • 矢薙「悪霊を退治する人の話」

1巻は2020年4月29日刊、2巻は2020年6月18日刊。1巻は104ページ、2巻は92ページ。

主人公・聖太陽は悪霊に憑かれて困っている人から悪霊を祓ってくれるが、その悪霊を脅して配下とし、自分の目的のために利用するのだった……例えば、対象者だけに聞こえる足音を発生させる悪霊は、目の見えない人に取り憑いて盲導犬代わりに。生物の身体を乗っ取り操ることができる悪霊は、リハビリ中の患者に取り憑いてリハビリを支えるように。……

継母に対してどうしても「お母さん」と言えない女の子が、その言葉を言うために悪霊の力を借りに来る話が秀逸。

禍々しい設定と主人公の禍々しい表情とは裏腹に、悪霊がストレートな善行をするようになる話。ギャップ萌え。聖太陽に憧れて悪霊退治を手伝うショウコの存在も可愛い。

1巻は連作短編だが、2巻は、1巻それぞれのエピソードを繋ぎ合わせて一つの話にしたもの。なかなかよくできており、特にショウコの正体がなかなか考えさせるが、没になったとのことでネーム状態なのが残念である。これ、誰か別の漫画家が漫画化しないかな。



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「小袖日記」

  • 柴田よしき「小袖日記」(文春文庫)

単行本は2007年4月1日刊。文庫は2010年7月9日刊。恐らく新装版が2022年4月に刊行されたものと思われる。連作短編集。

蔵書の再読。当時も面白く読んだ記憶があるが、「光る君へ」を視聴中の今、この本が発掘されたのは偶然ではなかったような気がする。一気に読み、最後は感動して涙を流した。

多くの要素が詰め込まれた贅沢な作品だが、そのためにどういう話かを一言で言うのがとても困難でもある。基本的には歴史ミステリーだろう。物語は「小袖」なる人物の一人称で語られる。一般に「紫式部」と呼ばれる女性(作中では香子と呼ばれている)に仕える女房(でいいのかな)である。この香子がいわばホームズで、小袖はワトソン。宮中で起きた事件を香子が解決し、小袖はそれをわれわれ読者に伝えてくれるという構成である。

さらに、香子はその事件をもとに物語を紡ぎ出し、源氏物語として公表する。もちろん事実そのままでは差しさわりがあるから、大幅に内容を変えることになる。ということは、現在の私達が「源氏物語」として読んでいる話は、実際にはこういうことだったんですよ、という二重の謎解きになっている。むろん自分は源氏物語など知らないから、後段は味わうことができないが、知っている人は面白く読めるだろう。

また、タイムスリップものというSF小説でもある。この小袖は、実は現代(平成20年頃か)の三十路のOLなのである。雷に打たれ、気づいたら平安時代に飛ばされていた。ただし肉体そのものが飛んだのではなく、魂(?)だけが小袖というこの時代を生きる18歳の少女に宿った、という、少々ヤヤコシイことになっている。現代の知識と感覚を持った人間が、とにもかくにも平安時代に適応して暮らして行こうとしている。だから源氏物語の筋も(ある程度)知っているし、つい有り物を使ってアイスクリームを作って見せたりする。最後は、元の時代に戻れるのか!? という展開になる。

もうひとつ、フェミニズム小説でもある。自分は漠然と、この時代は妻問婚であることから、女性の力が強かったと漠然と考えていたのだが、小袖によれば「とんでもない」ということになる。この時代の女性の立場がいかに弱いものであったか、小袖は折に触れて力説する。小袖はそれを「仕方のないこと」と受け入れたりはせず、無論世の中を変える力などないけれど、自身ができる範囲で可哀相な女性の味方になろうとする。力強い女性の話でもあるのだ。

それにしても、エピローグの最後の数行は、泣ける。