鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

のだめオペラ編の魅力

のだめカンタービレ」番外オペラ編で興味深いなあと思ったのは、千秋の浮気疑惑。もちろん千秋自身はやましいところは全くなくて、のだめが勝手に思い込みで嫉妬しているだけなんだけど……

千秋は劇団の主宰者・ブー子こと菅沼沙也と切れのいいぼけツッコミを繰り返す。これも番外編の見どころのひとつ。

夜の女王のオーディションで:
菅沼「私より細い時点でアウトでしょ!?」
千秋「おまえ帰れよ」

菅沼「この女(=吉倉杏奈)は千秋くんのなに!? 元カノ?(略)ふたりとも焼けぼっくいに火なんかつけちゃったりして」
千秋「おまえはなにしに来てるんだ!? 燃やすぞ!!」
菅沼「だってちゃんとクギ打っておかないと!!」
千秋「おまえ頭打たれたいか!?」

過激なダイエットをするブー子に
千秋「いいから食えーーーっ」(ダイエットランチを無理やり食べさせる)
菅沼「ガボーーー!!」

番外編初登場キャラの吉倉杏奈は、千秋の幼なじみでウィーンでデビュー済みのプロの歌手。しかも美人(コミックス内でいうと、いかにも美人風に描かれている点では、23巻にチラと登場したブラジルのオケのバイオリニストと双璧か)。しかもどうやら今でも千秋のことが好きな様子。ブー子だけでなく真澄ちゃんも心配して、「どうする!? のだめ、呪う!?」(←この「呪う?」というのがオカシイ。他にやることないのか)と言い、当ののだめも「確かに危険な臭いがプンプンと……」と不安がるが、のだめが心配している相手は菅沼紗也。「あの人絶対千秋先輩のタイプですヨ!!」と主張する。「それは違うと思うわよ!?」と真澄ちゃんは言うが……

読者も大半が真澄ちゃんと同じく、仮に千秋が浮気するにしても、ブー子はないだろう、と思うのではないか。作者もそのつもりで、のだめだけがまた頓珍漢なことを言っている風に描いている。が、僕にはそれがわからない。わからないというのは、千秋が杏奈に惹かれる理由がわからないし、ブー子に対して「それは違う」とする理由もわからない、ということ。つまり、のだめの心配は至極まっとうなものに見えるということだ。

もちろん、これを物語として外から眺めている読者としては、千秋の相手役はそれなりの容姿の人間になるだろう、という判断はつく。しかし千秋自身は、のだめにしても彩子にしても、容姿を考慮している節はない。あくまでその才能に惚れたはずだ。そして付き合う上で性格が合うかどうかは重要。いくらお互いに尊敬していても会話が弾まない相手もあるし、俺様千秋様に対して一方的に憧れ、へりくだるだけの女は千秋は相手にしないだろう。

千秋に対して物怖じせず、言いたいことをポンポン言うからこそ突っ込まれるわけだし、千秋にしても、劇団を引っ張るブー子の力量は十分に認めている。認めているからこそあれこれうるさいことを言いたくなるわけだ。そしてかつてのだめが言っていたように、突っ込みがきれいに決まると、突っ込まれた方も気持ちいいのだ、きっと(そう感じるのは変態のだめだけかも知れないが)。そういう意味では、この番外編でのブー子・千秋の掛け合いは学生時代ののだめ・千秋を彷彿させるものがある。

もしこの時、千秋にのだめがいなかったら、そしてもしブー子が少しでも千秋に気があったら、気付いた時にはこの二人、カップルとして成立していたかも知れない。そのくらい息が合っていた。

というわけで、番外編で最も笑えたギャグは、ブー子のひとりごと。

「千秋くんてどんだけわたしの事好きなんだろう。残念ながらわたしの好みじゃないんだけど」

ついでに、同列次点はのだめのこのセリフ。

「なにがすごいって、あの人千秋先輩のこと日本で一番なめてますよね?」
「あんたがそれ言う?」(by 真澄)

(別ブログより転載)