鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

怖いのは死んだ人間か、生きている人間か

  • 明野照葉、「棲家」(ハルキ・ホラー文庫)

こういう小説をホラーというのだろうか。事態が日常生活を超えて不思議な、というより異常な事態を引き起こし、どんどん深みに嵌まっていくのも怖いし、ラストで事件が解決したかに見えるうしろでさらなる事件が暗示されるところも怖い。なかなか秀逸な作品である。

主人公の希和は一人暮らしの会社員。恋人は仕事が忙しく、時間が読めないため、デートの時間がなかなか確保できない。自分の部屋にふらりと立ち寄れるようにすれば、ちょっと空いた時間に会うこともできるが、今の部屋は狭くて散らかっており、とても人を呼ぶわけにはいかない。そこで、新しく少し広い部屋を借りることにした。

そうしてみつけた部屋は、希和にとってまたとない好条件の物件だった。広いし、家賃はリーズナブルだし、大家さんはいい人だし、なにより建物のデザインが優れていて居心地がいい。ところがそう感じるのは希和だけであって、紹介した不動産屋も、遊びにきた友人も、かんじんの恋人も、気味が悪いと言い、寄りつかなくなる。なぜそんなことになるのか……

怖い話だが、霊魂が原因だとわかると、どんなに陰惨な場面でも安心して読める。これは超常現象を描いているのだから、と現実と切り離された気分になるからか。小説としてはとてもリアリティがある。霊魂の引き起こす現象が怖いというより、友人などから「やめなよ」と言われ、状況的にも明らかにやめた方がいいと思われるのに、そういう状況になればなるほど、本人は反発し、さらに突き進んでしまうその感情が怖いと思う。

デビュー作「雨女」(「澪つくし」所収。これは傑作)に直接つながる系列の話。のちの作品のようなじとっとくるような気味の悪さはなく、さわやかに(?)読める。

棲家 (ハルキ・ホラー文庫)

棲家 (ハルキ・ホラー文庫)