鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

兄弟姉妹あるところに遺産争いあり

ユーモア小説。これまで読んだ明野作品の中では異色に思える。こんな作品も書くとは少々意外。

稲本家には娘が三人。ある日父親が、「今まで黙っていたが、実は四女がいる」といってその子を家に連れてきたことから騒動が始まる。母親は既に他界。

  1. 三姉妹は、これまであまり父に可愛がってもらった記憶がないが、四女に対しては異様に甘い。そのことに対する嫉妬
  2. 四女の年齢からすると、四女の母と付き合っていたのは自分たちの母がまだ生きていた頃である。自分らの母を裏切っていた父に対する怒り
  3. 自宅があり、それなりの退職金ももらったであろう父の遺産にはそれなりに期待していた三姉妹であったが、四等分ということになると大幅に取り分が減ってしまうことに対する不安

調べてみると、その子はそもそも本当に父親の娘なのか? という疑惑も持ち上がり……というわけで、三姉妹が結託して四女に対抗するさまをユーモラスに描いた作品。

この三姉妹は、もともとあまり仲が良くなかったが、四女に対抗するため、かつてないほど協力関係を築き上げる。こういうのっていいな、という気持ちが各人の中にちょっとだけ芽生えるが、いざ四女を追い出してみたら、再びいがみ合う関係に戻る点は皮肉たっぷりで、このあたりは明野調。父が死んだあと、お寺に多額の寄付をしていたことを知ると、取り返しに行くところは、人間の醜さを描き切ったととるか、笑うところととるか。

骨肉 (中公文庫)

骨肉 (中公文庫)