鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

遺産を巡る複雑怪奇なストーリー

北川歩実覆面作家らしい。年齢・性別・本名などが明かされていないことからそう呼ばれるらしいが、本来、作家は作品が勝負で、むやみに私生活を明かす必要はないし、読者だってそんなことに興味はないはずなのだ。が、いつの頃からか作家がどんどんタレント化して、キャラで勝負みたいな風潮が作られ、私生活が切り売りされていく。だから、私生活を大切にしたい人はわざわざ「覆面作家」と名乗らなければならないのだろう。変な話だが、出版社側は作者のプロフィールは押さえているはずで(打ち合わせをすれば年齢も性別もわかるし、原稿料を振り込むには本名が必要)、覆面作家と言っておけばむやみにプライベートを口外されずに済むのなら、それはそれでありがたい約束事かも知れない。

しかし、文庫本の解説に毎回毎回「この人は覆面作家です」と書かれるのもね。覆面であることを売り物にしてもしょうがないと思うのだが。

さて、富豪の遺産をめぐるあれこれはミステリーのネタになりやすいが、北川らしい実に凝った作りになっている。それだけに、真相を早々に見抜くのはほぼ不可能と思われる。北川ミステリーの特徴のよく出た作品。