鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

衝撃作「彼女がその名を知らない鳥たち」

一言でいえば、衝撃的な作品だった。面白かったとか悲しかったとかいう以前に、ハンマーで胸の奥をぶっ叩かれたような。すごく感動した、ということは時々あるが、衝撃を受けることは珍しい。最近ちょっと記憶にない。

沼田まほかるの作品は、デビュー作「九月が永遠に続けば」のあと、「猫鳴り」を先に読んだのだが、発表順でいくと本作が2作目、「猫鳴り」が3作目になる。「九月が永遠に続けば」の次の作品であり、「猫鳴り」のひとつ前、と思うと、納得のいくものがある。

主人公の十和子は嫌な女である。仕事をせず、家事もせず、内縁の夫の悪口ばかり言っている。いや、悪口などというものではない。恨みつらみ、あるいは呪いの言葉をつぶやいている。本当に心の底から嫌っているのだろう。それならさっさと別れればいいものを、彼の収入で生活しているというだけでなく、食事の支度からマッサージから、彼の世話で生きていてそれを悪いと思っていない。

内縁の夫である陣治も、嫌な男である。十和子の目を通して語られるからよけいにそう感じるのだろうが、ここまで十和子に尽くして文句のひとつも言えない気の弱さだけでなく、生理的に嫌である。利害関係がなくても、一晩でも一緒にいたくないタイプだ。

沼田まほかるは嫌な人間を描かせたら、いや、言い換える、人間の嫌な面を描かせたら、右に出るものはないのではないか。ここまで書いたら、読み進めるのが嫌になって本を閉じる人も出てくるでしょ、とお節介を焼きたくなるくらい徹底的に嫌な部分を描き続ける。

途中、行方不明の人が出てくる。家出? 事故? 自殺? それとも……この経緯を追うところは、一応質の高いミステリーになっており、その結末もそれなりに驚愕だが、その事実がわかった後の周囲の振る舞いが……

最後にひとつ、疑問。陣治は十和子のどこが好きだったのだろう。さほど容姿端麗な風ではなく、頭脳明晰というわけではなく、自分に懐いているわけでもなく。仕事もしなけりゃ家事もしない、セックスの相手もしてくれない。ホワイ! と思う人は僕だけではないと思うが、まあ、真実の愛とは見返りを求めるものではないのかも知れない。

もうひとつ、疑問。書名に意味がわからない。「彼女」は十和子だろうが、「鳥たち」というのは誰(何)を指すのか?

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なるほど、そういう解釈もあるのですね。

(2011/12/26)