鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ゼッタイドンカン」

ゼッタイドンカン

ゼッタイドンカン

書店でふと目に付いたので購入。作品名はもちろん、作者名も初めて。昔はこういう買い方は珍しくなかったが、かっちりとビニールコーティング(笑)されている今、表紙だけで判断するのは勇気がいる。しかしその表紙の絵柄が印象的だったのと、「ピアノの森」「のだめカンタービレ」等クラシック音楽を題材にした作品にはずれなし、と強気で買ってみた。

で、これが正解。

内容は、今どきピュアなラブストーリーである。主人公の瀧さんは高校時代にふとしたきっかけで同じクラスの中森くんを好きになるのだが、鈍感な中森くんはなかなか瀧さんの気持ちに気づかない。でも、中森くんから「瀧さんは調律師になるといいよ」と言われたその一言を心の支えに、猛勉強して調律師になってしまう。

で、あれやこれやあって、結局二人は結婚する、というわけで、なかなかに真っ当な純愛初恋物語である。

  • 絵がきれいで、女の子が(男の子も)かわいくて好感が持てる。
  • 高校時代は中森くんが瀧さんにピアノを教え、その後調律師になってからは調律する場面が何度も出てくるが、作者に音楽の素養があったのか、きちんと取材をしたのか、割ときちんと(専門的なことがさらりと)描かれている点も好感が持てる。自分も一応ピアノをやっていたので、ろくにピアノを知らない人が、ある種のイメージを醸し出すために単なる小道具としてピアノを使うと割と腹が立つのだ。「ドカベン」の殿馬君とかね。
  • 中森くんは、確かに瀧さんが泣きたくなるほどドンカンだけど、瀧さんも実はもっとドンカンでした、というオチが微笑ましい。
  • 結婚して、子供が生まれてからも互いに「中森くん」「瀧さん」と呼び合っているところが(非現実的だけど)微笑ましい。
  • 高校1年生だった二人が、最終章では32~3歳くらいなのかな。顔つきも少し変わってきているし、時の流れを感じさせるところがうまい。
  • お互いに初恋の人と結ばれるストーリーは古典的だけど、現代的な味付けもちゃんとある。勤めるようになって、中森くんは一人暮らしで、瀧さんは実家暮らしなのだが、瀧さんが「私も家を出ようなか」と言うと、ドンカンな中森くんは「部屋を探すなら手伝うよ」と呑気にのたまう。ついに瀧さんは切れて、「あたしがこっちに住みたいって言い出したのも、一緒に住みたいからに決まってるでしょ!!」……というわけなのだが、僕などの感覚だと、いくら好きで付き合っているからといって、一緒に暮らすなんてことはそう簡単にはできない。親や勤め先や周囲に黙ってというわけにはいかないし、そうなれば籍を入れるかどうかは別にして、ほぼ結婚すると同義だ。だから、そのくらいの覚悟と準備がないと気軽にそんなことはできないと思う。でも、最近の若い人は割と気軽に同棲するらしい。ま、四畳半フォークの時代も同棲は流行ったけど、日陰者のイメージがつきまとった。明るく同棲を(しかも女性が)語るあたりは現代的だなあと思った。
  • ところで、僕も「どんぐりころころ」の次は「どんぐりこ」だと思い込んでいました!!

この作品も面白いけど、宇仁田ゆみの作品をちょっといろいろ読んでみたいと思わせてくれた一冊だった。

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99%賛成するけど、「歌音がどんどん美人になっていく」はどうかな。表紙の(高校生の)歌音に惹かれてこの本を買った自分としては、歌音は高校時代から美人だった、と言いたい。