鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ダーリンは55歳」

ダーリンは55歳 (IKKI COMIX)

ダーリンは55歳 (IKKI COMIX)

山崎紗也夏の作品は継続的に読んでいるが、どういう人か知らない。実をいうと男か女かも知らなかった。この本を店頭で見かけて、女性であること、既婚であること、相方は20歳上……つまり山崎は35歳であるということを知ったのだった。なんとなく、もう少し知りたくなって買ってみた。

面白いけど、正直なところ、いまいち。タイトルからして「ダーリンは外国人」のパクリ……いや、同じ趣旨の企画(ちょっと世間には珍しい夫をネタにしたエッセイ風漫画)であることはすぐにわかるが、内容的にはかなり差がある。

多くの日本人は、日常的に外国人と接する機会がほとんどない。だからトニーの思考や生活を紹介するのは意味がある。大半の読者は「ええ、そうなの?」と驚くだろう。しかし、55歳の男性は珍しくないのだ。父親だったり祖父だったり、この年代の男性と一緒に暮らしている人は世間にはいくらでもいる。珍しいのは夫婦で20歳という「年の差」なのだから、そこに焦点を当てないと、単に「55歳の男がこういうことをしている」ということを描いても面白くないのだよ。

読者からすると、どうして20も年上の人と結婚しようと思ったのか興味があるが、結婚のいきさつについては全く触れられていない。また、下品な話で恐縮だが、年の差婚と聞いて連想するのは、あっちの方はうまくいっているのか? ということ(あっちがどっちかわからない人は、読み流してください)。本書ではあっちの話も触れられていない。そのせいなのかどうか、なんだか兄弟か親子のような雰囲気で、夫婦であるということがあまり伝わってこない。

もともと山崎紗也夏の絵は写実的で線がきれいで、女性の身体にほのかに色気のある、稀有な作家であったが、本作ではギャグ漫画であることを意識してか、がらりと絵柄を変えている。デフォルメが大きく描き込みの少ない、いわゆるギャグタッチの絵である。が、成功しているとは思えない。ストーリー漫画の絵でギャグをやる、というのはそれ自体がひとつのギャグとして一定のジャンルを築いている。が、この世界には元々絵のうまい人しか入れない。山崎紗也夏にはそこを目指してほしかった。

というか、この絵、誰かに似ているなあ? と思ってよくよく考えてみたら、小栗左多里ではないか。企画だけならともかく、絵までマネしちゃいかんよ。

ところで、夫さんも同業者らしい。章末に数ページ、彼の作品が掲載されているが、作者は「ダーリン」になっていて匿名である。なぜ匿名にしているのかは不明だが、頑なに、ダーリンの名前は伏せられている。が、絵を見れば一目瞭然、泉昌之ではないか(泉昌之は合作のペンネームなので、この場合は泉晴紀と言った方がいいか)。

山崎紗也夏はモーニングという知名度の高い週刊誌にたびたび連載を持ち、単行本の数も多い。「シマシマ」はTVドラマ化されているから、まずは売れっ子の一人といって差支えないであろう。一方、泉昌之とか泉晴紀とかいっても若い人は知らないかも知れない。が、僕らの世代(特に男性)にとって、泉昌之の「豪快さんだっ」や「ダンドリくん」のインパクトは強烈で、山崎紗也夏よりはるかに「格上」という印象である。

そうかー、泉晴紀山崎紗也夏と結婚したのか……

豪快さんだっ! 完全版 (河出文庫)

豪快さんだっ! 完全版 (河出文庫)

  • 作者:泉 昌之
  • 発売日: 2008/04/04
  • メディア: 文庫