鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

なんといっても設定が素晴らしい「恐怖新聞」1-9

僕が小学生から中学生にかけて、全国的に「オカルトブーム」なる現象が起きていたのだが、それを支えたのは、つのだじろうの「亡霊学級」「うしろの百太郎」「恐怖新聞」という一連の漫画だった。漫画が登場してブームが起きたのか、ブームに乗っかって漫画がヒットしたのかわからないが、鶏と卵のような関係もあっただろう。

「亡霊学級」は伝説を、「うしろの百太郎」は霊魂を扱っていた(はずだ)が、「恐怖新聞」は霊魂、超能力、悪魔、宇宙人といったものを一緒くたに扱っている。本来は別々に論じられるべき、全くことなる現象と思うが、同じレベルで扱っているために、今読むとずいぶんと胡散臭い。ただし漫画作品としてはバラエティに富み、一連の作品の中ではずば抜けて面白かった印象を持っている。

たまたまAmazonで一冊150円で販売されているのを知り、全9巻を大人買いした。電子書籍は全般的には不当に高いと思うが、時々こうした良心的価格で販売されているのを見つけるとほっとする。とはいえ、いくら安くても片端から買っていては財布に悪影響があるのだが。(付記。今は95円のようである。ちょっと悔しい。)

鬼形礼少年のところへ、ある夜、「恐怖新聞」なるものが配達されてくる。記事の内容は超常現象全般だが、翌日の出来事も過去形で記事になっており、しかもそれはいざ翌日になってみると100%当たっている。この新聞は悪霊が運んでくるもので、一回読むと寿命が100日縮まるという。しかしカーテンを引こうが雨戸を閉めようがどうやっても読むことを拒否することはできない。その一方、鬼形以外の人は恐怖新聞が読めないため、その存在を誰にも(両親にも)信じてもらえない……。

というこの設定は、最高に恐ろしく、最高に面白い。鬼形は本来霊の存在など信じていなかったが、恐怖新聞の「予言」が確実に当たるのを見せ付けられ、厭でもその存在を信じざるを得なくなる。またこの恐怖新聞は、読んだら死ぬ、というほどの劇薬ではないが、一回100日寿命が縮むということは、ざっと半年ほど読めば50年の寿命が縮まるわけで、何らかの形で購読を中止しない限り、あっという間に寿命が尽きてしまう。今は健康でピンピンしているのに、一年後には確実に生きていまい、というのは相当な恐怖であろうと思われる。その上、周囲の人が誰も信じてくれない孤独、真顔で話せば話すほど変人扱いされるストレス。なんとよく出来ていることか。まさに「設定勝ち」である。

それにしても救いのない話である。途中から登場する中神緑子・洋介兄弟は、唯一、鬼形の言うことを信じてくれる味方であり、登場以降は準主役のような存在になるのだが、最終章に入るところで悲惨な最期を迎える。え、本当に死なないよね、どんでん返しがあるんだよねとの願いも空しく、彼らは作品から姿を消す。そして鬼形自身も、霊能者に悪霊の除霊を依頼するが、失敗し、無残な死を迎えることになる。可哀想な立場の主人公が、結局報われることなく、もっと可哀想な状況に陥って終わるというのは、読んでいてやるせない気分になり、漫画作品としてはいかがなものかと思うが、そのくらい霊というのは怖い存在なのだということを意識させるという意味では、いい終わり方だったと言えるのかも知れない。当時、本作を読んで霊魂(悪霊など)の存在を本気で信じた小中学生が続出したのも当然と思える。

ところで、鬼形くんは作中、除霊に二回失敗している。どちらの場合も、「××するまでここから出るな」と厳命されていたにも関わらず、その指示を破ってしまう。特に二度目の除霊では、開始早々あっさりとこの禁を破り、この時は霊能者の機転でとりあえず助かり、除霊自体は継続されるが、これによって除霊の難易度がぐっと上がってしまう。

もちろん、悪霊の方も除霊を失敗させようとあの手この手を使うわけで、それに引っかかってしまった鬼形を誰が責められようか、それも含めて悪霊が一枚上手だったのだということなのだろうが、どちらの場合も、鬼形が指示を守りさえすれば除霊は成功したと思われるだけに、残念というより、鬼形のために命がけで悪霊と闘った霊能者にしてみれば、たまったものではないだろうなと思う。
(2015/2/17 記)

恐怖新聞(1)

恐怖新聞(1)

恐怖新聞(2)

恐怖新聞(2)

恐怖新聞(3)

恐怖新聞(3)

恐怖新聞(4)

恐怖新聞(4)

恐怖新聞(5)

恐怖新聞(5)

恐怖新聞(6)

恐怖新聞(6)

恐怖新聞(7)

恐怖新聞(7)

恐怖新聞(8)

恐怖新聞(8)

恐怖新聞(9)

恐怖新聞(9)