鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「猫の手貸します」

「猫の手貸します」は、1987年、講談社アフタヌーン四季賞の受賞作。当初は読み切り作品であったが、それを第一話として連載となった。もう30年以上も前の話だ。当時のアフタヌーンには面白い話が多かった。

まず読み切りで書いて、よければそれを連載化する、というのは漫画界ではよくある話だが、うまくいく場合といかない場合がある。本作も、第二話では一話との話のつながりに苦労した跡が窺える。が、最終話は感動的で、ここまで書いてよかったと思う。

主人公の女が自立していくのに、年上であり上司でもある男の方が自立できない話。別れ話をしていて、「俺じゃなくてもよかったのか? もう居なくていいんだな?」と迫る男に対して、明るく「うん、がんばる じゃあねっ」と微笑む主人公。取り残されて涙をぼろぼろ流す男の情けなさがいい。

入江紀子はこの後も一貫して自立する女性を主人公に描き、それは当時としてはかなりラジカルだった。絵のタッチも、少女漫画ではあるけれど、しつこくなくあっさりしているのも好感が持てた。一時期はかなり好きな作家で、2000年ぐらいまでは単行本はすべて買っていたはずだ。

しかし今、kindleで読める彼女の作品は、本作と「こぐまのマーチ」だけ。彼女のような立ち位置の作家は、読者からすれば一番電子化してほしいのだが、一番電子化から遠いところにいる。数年後には事態は変わっているだろうか。

(2019/8/30 記)