主人公の白鳥純也が空手の試合で、正拳七段打ちで相手を失神KOするが、試合終了後に先輩から「今のは三段打ちできれいに一本取れたケース」と咎められるシーンだけ、記憶に残っていた。中学一年生の頃である……
主人公の父親、湖彦は戦場カメラマンである。日下部という報道カメラマンは一番弟子だったが、のちに破門された。それは日下部がベトナムで撮った写真の中に「乳房にナイフを突き立てられた女性」があり、それを見た湖彦が、こんなものを撮っている暇があったらなぜとめなかったのか、お前には人間の心があるのかと激怒したからである。
戦場カメラマンは世間の人からそのような批判をよく浴びる。有名なのが女の子が裸で走っている(逃げまどっている)写真で、その作品は大きな賞を受賞したが、同時に、なぜこの子を助けなかったのかという非難も集まった。が、カメラマン自身がそんなことを言うとは信じられない。それは自分で自分を否定するに等しい。
戦場で「やめろ」と丸腰で割り込んだところで自分も一緒に殺されるのが関の山である。目の前の人を救う代わりに、そうした悲惨な現場をカメラに収め、世間に発表することで、戦争をやめさせる世評を作り出すことを目的とするのが戦場カメラマンだろう。上記の女の子の写真も、その子がどうなったかはわからないが、ベトナム戦争を止めるためになんらかの影響はあったはずだ。
実際、白鳥湖彦は戦場で命を落とす。こういう行為はけだかくもなんでもなく、単に命をドブに捨てただけだと思う。素人が戦場でできることなど何もないのだ。
(2020/3/11 記)