鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「若い貴族たち」(その2)

若い貴族たち4

若い貴族たち4

若い貴族たち5

若い貴族たち5

若い貴族たち6

若い貴族たち6

Amazonのレビューに「あしたのジョー」の何回目かの焼き直し、という表現が見られた。主人公が女であるという点は目新しいが、それ以外は安心・安定の「梶原節」なのは事実である。ただマキ自身はボクサーになるとか世界中に空手を広めるとかの目標があるわけではなく、ただ流れ流されて生きているのみであり、「あしたのジョー」との共通点はあまりない。

女子少年院の受刑者が男の教官から、検査といってはすぐに裸に剥かれ、叱責と称して殴る・蹴るの暴力をふるわれるくだりはかなり執拗に描かれており、このあたりは「カラテ地獄変 牙」(同時期の連載)と共通する。またマキを命懸けでかばった男が、そのために大けがを負い顔が醜く変わっても、それがゆえに彼の気持ちに心打たれたマキが彼を愛するようになるくだりは「愛と誠」の高原由紀を想起させる(これも同時期の連載だが、エピソードとしては「愛と誠」の方があとか)。気が弱く、才能にも恵まれているとはいえばい漫画家が登場し、主人公をモデルとした作品を描くことで認められるようになるのは「巨人の星」か。似ているというほどではないが、漫画作品の中に漫画家が登場するのはかなり印象的なので触れておく。

マキのふるう空手の技は現実離れしており、その点はかなり不満があるが、恐らく佐藤まさあきは空手のことなどほとんど知らなかったのだろうから無理はない。これは他の梶原一騎作品でも同様で、空手家がやたらに登場する割に、漫画家が空手をきちんと描けないのは不思議である(晩年に組んだ原田久仁信がようやくまともに描いた)。

まずまず面白い作品ではある。しかし6巻を読んで驚いた。終わっていないのだ。全6巻ではなかったのか! 巨悪に挑み、黒幕にこれから立ち向かうちょうどいいところで話が切れている。作品自体が未完なのか、作品は続いているが単行本化されなかったのかわからないが、これはひどい。作品紹介できちんと言及すべきことである。また、もし作品自体は続いていたのだとしたら、ぜひこの機会に残りも単行本化してほしい。電子化のみであればそう難しくはないはず。原稿が残っていれば、だが。


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(2020/4/1 記)