鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「四角いジャングル」はちょっと語らせてもらいたい(その4)

この作品には嘘が多い。嘘と見抜くためにはいろいろな知識が必要になるが、まず、本書を読んでいるだけで気付くのが、マーシャルアーツの説明である。

赤星潮は兄がマーシャルアーツの選手に負けたと聞いて、どんな格闘技なのか試合を見に行き、「空手に似ているが空手そのものではない」とつぶやく。そして、マーシャルアーツ(軍隊の格闘技)は戦場での殺しの技だ、だからあらゆる格闘技の殺人技のみが選りすぐられ、空手に危険な技が多いため空手に似ているに過ぎない……という説明がなされる。すごい、と誰でも思うわけだが、読み進めてみると、マーシャルアーツは肘打ち・膝蹴り・下段蹴りが禁止されているという。そりゃないよ。空手の(タイ式もだが)殺し技といえば肘と膝だろう。そして実際、中量級チャンピオンのベニー・ユキーデはタイ式ルールでシーソンポップと闘い、負けてしまうのだ。

初めてこの漫画を読んだ時は、赤星潮は架空の人物なんだと思っていた。漫画だから当然である。ベニー・ユキーデやモンスターマン、アントニオ猪木大山倍達黒崎健時ら実在の人物がゾロゾロ出てくるが、これはいわゆる「巨人の星」の手法なんだろうと。ところが、実際に同名の選手が試合に出ていて、実在の人物だったのか……と知る。漫画ほど強くないけど……。のちに、初めは架空の人物だったが、あとから同姓同名の選手を仕立て上げて本物にしてしまったのだと知り、驚いたものだ。梶原一騎らしいといえばいえるが、そこまでやるかと。

あとは……

「熊殺し」ウイリー・ウイリアムスについて。ウイリーが熊と闘うシーンは映画「地上最強のカラテPART2」に収録されている。後日、ビデオを入手してそのシーンを何度も見たが、とにかく熊のような凶暴で馬鹿力を持つ猛獣と素手で闘うこと自体、誰にも真似のできないすさまじいことだということは認めなければならない。ただし、ウイリーが殴る・蹴るを連発しても、熊は全く効いた様子がない。殺すどころか倒すことすらできずに闘いのシーンは終わる。これを以て「熊殺し」というのは盛り過ぎである。

他にも、極真空手の世界大会も猪木・ウイリー戦も自分は(テレビ越しに)見たし、中村誠の百人組手挑戦のシーンも後日関係者から直接話を聞いたが、嘘というと語弊はあるけれど、ある部分を誇張し、ある部分を意図的に省くことによって事実とはかなり違った印象を読者に与える、という点ではかなりの「作り込み」が入っている。

こうしたことを批判しているのではない。ドキュメンタリーを謳いながら、事実を自在に歪曲してしまうところが梶原一騎ワールドなのであり、そこがまたたまらない魅力でもあるのだ。


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(2020/4/7 記)