鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「四角いジャングル」はちょっと語らせてもらいたい(その6)

全5巻なので5回に分けて語るつもりだったが、全然物足りない。

ストーリーが支離滅裂に見えるのは、想像だが、日本でマーシャルアーツがプロ空手と呼ばれてブームになった時に(それ自体も梶原一騎が噛んでいたものかも知れないが)、それの紹介のために本作を書き始めたものの、あっという間にブームが終焉してしまったため、(自分が仕掛け人である)猪木-ウイリー戦にテーマを切り替えたんだろうと思っている。

その猪木-ウイリー戦だが、当時高校生だった自分は、「ウイリーが本気を出せば30秒で勝つ」というのを信じていたし、また、そうなってほしいとも願っていたのだが、引き分けに終わった試合を見て「猪木は強い……」と感心したことを覚えている。

あとから考えれば、猪木はプロの格闘家であり、歴戦のつわもの。ウイリーは資質はともかく、アマチュアであり、今回がいわばデビュー戦なのである。デビュー戦でタイトルマッチをやるなどというのは普通は考えられないことであり、負けなかっただけで「すごいこと」であろう。

後日、真樹日佐夫が「あれは八百長だった」とバラし、現在ではそれが定説となっているが、自分は疑問に思っている。「試合」である以上、何らかの約束事があったのは事実かも知れないが、ウイリーが「本気を出さなかった」ということはないだろう。プロレスラー同士なら筋書き通りに試合を進めることもできるだろうが、アマのウイリーにそんな芸当は無理だ。

なお、ウイリーは極真空手家として最強、というように描かれており、猪木-ウイリー戦の直前の第二回世界大会でも、わざと反則を犯して三位にとどまったが本気で狙ったら優勝できた……というが、これは優勝した中村誠や準優勝の三瓶啓二にずいぶんと失礼な言い草だ。身体が大きいので突きや蹴りに威力があるのは事実だろうし、タフでちょっとくらい殴ったり蹴ったりしたくらいでは効かないのも事実だろうが、空手の「技」はたいしたことはない。どちらかといえば下手な選手だ。

そのことは第三回世界大会の田原敬三戦で立証された。ウイリーが力任せに突進するのを田原選手がさばき、自分の攻撃を的確にヒットさせていた。ウイリーの攻撃を一発でもまともに食らったら終わりだろうし、田原選手の攻撃が二三発入ってもウイリーは倒れないので、田原選手自身も必死だったには違いない。が、ウイリーの技を冷静に見切り、同じ箇所に攻撃を繰り返しダメージを積み重ねていく。あれこそ「技の極致」だと感動したものだ。なお失礼ながら、田原選手は全日本大会で入賞したことはなく、中村・三瓶と比べると格下の選手である。その田原選手に負けたあたりがウイリーの「実力」だろう。

その田原敬三選手も、ウィリー・ウィリアムスも、そして梶原一騎も、この世の人ではない。諸行無常の響きあり。


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(2020/4/9 記)