先日「四角いジャングル」を読んで本作が読みたくなり、何年ぶりかで読み返した。いろいろ感じるところはあるのだが、漫画作品そのものの感想は別にして、この作品は、特に初期において様々なパロディが散りばめられている。雑誌連載のものをリアルタイムで読んでいた人はちゃんと理解できていたはずだが、単行本で読んでいた人はいろいろ「?」マークが頭に浮かんだことだろうし、今になって若い人が読んでも、何が何やらわからないのではないか。そこで、自分のわかる範囲で注を付けることとする。これを読んだどなかた博識の方が補足してくださると嬉しいのだが。
p6. 出席を取るシーンで出て来る名前は、少年マガジン連載中(または連載終了)の作品のキャラクターから取ったものだろう。上杉は「おれは鉄兵」(ちばてつや)の上杉鉄平、大賀は「愛と誠」(梶原一騎・ながやす巧)の大賀誠、星は「巨人の星」(梶原一騎・川崎のぼる)の星飛雄馬、矢吹は「あしたのジョー」(高森朝樹・ちばてつや)の矢吹丈、三平は「釣りキチ三平」(矢口高雄)の三平三平、火乃正は「青春山脈」(梶原一騎・かざま鋭二)の火乃正人。
p6. アントニオ猪木の著書「燃える闘魂」から一説が引用されている。「燃える闘魂」は猪木の代名詞でもあり、このような本が存在するのかと思い込んでいたが、どうもこういう本はないらしいのだ*1。三年前(1975年)に「燃えよ闘魂」という本を東スポから出しているので、それのことだろうか? それとも小林まことによる架空の著書だろうか?
pp42-43. 虎吉の「秘技コーラびんとばし」は、「空手バカ一代」(梶原一騎)で登場人物が空手技の威力を示すためにしばしば行なった「ビールびん切り」などのパロディであろう。なおビールびんもコーラびんも簡単には割れないように作られており、これを素手で割るのは相当な達人でないとできない(だから虎吉は飛ばすだけ)。まして空中で固定されていないびんを割るのは、現実には不可能だと自分は思う。
p53. バーの看板が「ヘッドロック」。(ヘッドロックはプロレスの技のひとつ)
p54. 実在の人物だが一応説明。
- アンドレ・ザ・ジャイアント:当時(1978年)の大人気のプロレスラー。世界一身体が大きく、本気を出せば誰も勝てないと言われていた(僕はそうは思わないが)。収入も世界一だったと言われる。たびたび来日して新日本プロレスのリングに参戦した。
- レッドシューズ・ドゥーガン:レッドシューズ・ズーガンとも。名レフェリーとして名を馳せた。当時は新日本プロレスでレフェリングを行なっていた。
- キャンディ・キャンディ:当時講談社の「なかよし」で連載中だった人気少女漫画。
p56. 実在の人物だが一応説明。
p70. このページはまるまる「四角いジャングル」のパロディ。ベニー・ユキーデは実在するプロ空手の選手。黒崎金時のモデルは黒崎健時。
p71. ウルトラ・タイガー・ドロップは漫画「タイガーマスク」におけるタイガーマスクの必殺技。
p77. 虎吉のバッグに「WWWF」の文字が見える。(WWWFはアメリカのプロレスの団体のひとつで、新日本プロレスと提携していた。1978年におけるチャンピオンはボブ・バックランド)
p90. 連載開始5週目にして早くも猪木が二度目の登場。どちらも三四郎が自分を励ましたり鼓舞したりする時に思い浮かべており、三四郎の猪木への傾倒ぶりがうかがえる。
p93. 「ミル・ドスケベス」は「ミル・マスカラス」のパロディ。ミル・マスカラスはメキシコを代表する覆面レスラーで、試合のたびに覆面を変えることから「千の顔を持つ男」といわれる。日本では全日本プロレスのリングに参戦している。*2
p103. 工藤先生のセリフ「あんた……三四郎に……ほれてるね」は、三年前(1975年)に大ヒットしたダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」の一節(あんた、あの子にほれてるね)のパロディ。
p129. 三四郎のつぶやく「わたしは戦うチャンピオンだ……だれの挑戦でも受ける!」は、異種格闘技戦を繰り広げていた猪木のセリフということになっている。本当に猪木がそう言ったのかどうかは定かではない*3。
p129. 国歌吹奏と称して三人がそれぞれ歌うシーン。三四郎が歌っているのは、アニメ「タイガーマスク」の主題歌「行け!タイガーマスク」。虎吉が歌っているのは、アニメ「キャンディ・キャンディ」の主題歌「キャンディ・キャンディ」。馬之助が歌っているのは北島三郎の「函館の女」。
p158. 陸上部の高田、テニス部の張本、土井、卓球部の長島……は、プロ野球・ジャイアンツの高田繁(外野手)、張本勲(外野手)、土井正三(二塁手)、長島茂雄(三塁手)から取ったものと思われる。2020年現在、土井以外はまだ存命だ。
(2020/4/21 記)
*1:ネットで検索しても出て来ない。ただしムックとかであれば、普通のやり方で検索しても出て来ないということはあり得るので、存在しないと断言はできない。
*2:当時の日本のプロレス界は、ジャイアント馬場の率いる全日本プロレス(略称・全日)とアントニオ猪木率いる新日本プロレス(略称・新日)と二つのメジャーな団体があり、競い合いつつも、ともに週一回のテレビ放送があるなど、大きな人気を誇っていた。三四郎たちは(というか、作者の小林まことは)新日系のレスラーの方が好きなようだが、ミル・マスカラスは別格ということか。
*3:プロである以上「だれの挑戦でも受ける」などということができるわけがない。アマチュアは論外だし(例外はウイリー・ウイリアムス)、プロの格闘家であっても様々な条件をクリアしなければ対戦というわけにはいかないはず。だからこんなセリフを軽々しく言うとは思えないのだ。一方、異種格闘技戦を進め、プロレス以外の格闘技から広く挑戦者を募っていたのも事実なので、こうしたことを言っていたのかも知れない。僕にはこれ以上は調べられないです。