「1・2の三四郎」のラグビー編は、漫画史上に燦然と輝く名作であり、記録に残る人気作である。
主人公の東三四郎のいるクラスに北条志乃が転校してくるところから物語は始まる。三四郎は、県下でも屈指の強さを誇る天竜学園ラグビー部で、飛鳥純とエースを争う名選手であったが、練習中の反則プレイでチームメートの宇ノ井に大けがを負わせ、退部。新たに格闘部を作って柔道を始めてみたものの、失意の日々を送っていた。
実は宇ノ井がけがを負ったのは、宇ノ井自身がスクラムの圧力に耐えられず膝をついてしまったからで、三四郎は無関係だったのだが、ラグビーのような野蛮なスポーツを敵視するPTA会長が、これを奇禍としラグビー部を廃部にしようとしたため、三四郎(と顧問の工藤先生)が責任を取ることで廃部を免れたという一幕があったのだ。真相を知っているのは宇ノ井と三四郎のみ。工藤先生は真相に気付いているようだが、他の部員は三四郎が原因だと思い込んでいて、三四郎のせいでラグビー部は廃部寸前まで追い込まれたと、三四郎を憎んでいるのだった。
その後、生徒会長の笠原礼子の後押しもあり、ラグビー部と格闘部がラグビーの試合を行なうことになった。試合の前半は、岩清水がラグビー部の選手の顔に殺虫剤を吹きかけたり、志乃が胸を触られたと虚偽の申請をしてトライを認めさせたりといった奇想天外な方法で得点を重ね、三四郎はますます批判を浴びることになる。が、ついに宇ノ井が全校生徒の前で真相を告白。三四郎の無実が晴れることになった。
わだかまりが解けたラグビー部と格闘部は、後半戦はルール通り正々堂々と試合をし、三四郎の巧みなリードで格闘部はラグビー部に僅差で勝利を収めることになる。試合後、飛鳥は三四郎にこれまでの不明を詫び、もう一度一緒にラグビーをやろうと声をかけるが、三四郎は自分が作った格闘部を抜けられないと、飛鳥の誘いを断るのだった。
というような王道の学園ドラマで、ストーリーはシンプルである。ここに、あまり誰にも似ていない絵柄と、キレッキレのギャグが加わるのである。
絵もうまいしギャグのセンスも素晴らしい、が、本作の最大の特長は、話の展開がスピーディなことだと思う。畳みかけるように先へ先へ進むから、わくわくするし、読んでいて大きな満足感が得られる。うがった見方をすれば、新人漫画家の初連載で、いつまで続くかわからないため、急いで話を進める必要があったのだろうが、スピーディな作品は七難隠す。
本作も、粗、とまでは言わないが設定の甘さはいろいろある。参豪辰巳ほどの選手が柔道部があるかないかも調べずになぜ天竜学園へ転校してきたのかとか、そもそもスクラムが崩れた原因は、その時練習に参加していた人ならすぐわかったはずだが、なぜ三四郎が悪者にされたのかとか。しかし、深く疑問に思う前にどんどん話が展開していくため、気にならないのだ。三四郎には両親がおらず、姉と二人暮らしだが、これは宇ノ井が、何かと「母さん母さん」ということとの対比で描かれるのみで、深く触れられないのもいい。
スピーディーに進み、4巻初めでラグビー編は完了。柔道編へと進んて行く。
(2020/5/7 記)