鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「1・2の三四郎2」2

小林まことには「柔道部物語」という作品がある。本作に先立ってヤングマガジンに連載されたもので、代表作のひとつに数えられている。「柔道部物語」の成功は、三五十五という人間の主人公もいるけれど、「柔道部」を主役にした点にあろう。全国の柔道部員、元柔道部員(そして柔道以外の部活動の部員、元部員)が、わがことのように感じて熱狂したのである。

その伝に倣えば、「1・2の三四郎2」は「インディープロレス業界」を描いたものだといえるだろう。お金がないから自主興行が打てない。練習場所の確保も一苦労。五頭信の自宅兼事務所兼合宿所だという狭いアパートの一室で、プロモーターに電話をかけまくったり、他団体に挑戦状を書いて送ったり。試合ともなればビールを売ったりお好み焼きを売ったり写真を売ったりして少しでも売り上げをあげるよう努力して、試合前は椅子をならべ試合が終われば敵味方一緒になってリングを片付ける。

このような内容をリアルに、ユーモアをもって描いたのである。世にプロレス漫画は多数あれど、こんなことを描いた作品はなかったはずだ。

現実のプロレスの世界には自分はさほど詳しくはないが、「1・2の三四郎」連載当時は、プロレス団体といえば全日本、新日本、そして国際の三つだけだったはず。が、1989年に大仁田厚FMWという団体を興したのを皮切りに、1990年代は数多くのインディー団体が乱立することとなった。本作が連載を開始した1994年は15ぐらいの団体があったはず。

作品の中でも三四郎らが、こうした実在の団体に挑戦状を送るシーンがある。何通か返事が来るのだが、それは実在のプロレスラーが直筆で書いているのである!(文面は誰が考えたんだろうか?)

また、単行本には収録されていないが、三四郎の着ぐるみを着た人が、それぞれのプロレス団体を取材に訪れるという企画があり、ヤングマガジンのグラビアにたびたび掲載された。あれは結構面白くて、楽しみにしていた。

考えてみれば当たり前なのだが、プロということは、それで生活をするということ。だから大事なのは観客を集めることであり、利益を上げることなのである。だからといって強くなくてもいいのかというと、やはりそういうわけではなくて、絶対的な強さを誇るエースがいれば人気も安定するが、そうでないと経営は厳しい。FTOも田中プロレスもプロ柔道も、結局エースが惨敗したり怪我で長期離脱する羽目になって経営が傾いている。とはいえ、強ければ、勝てば、即座に大儲けできるかといえば必ずしもそうではないのがつらいところだ。

そういうわけで、三四郎らも、金銭的には苦労しながら、プロレスを続けていくのである。



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(2020/6/3 記)