鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「僕の小規模な失敗」

モーニングに掲載された「僕の小規模な生活」を見て福満しげゆきを知った。割と気に入って単行本を買い、少し遅れてアクションで連載の始まった「うちの妻ってどうでしょう?」も揃えたが、その前の時代を描いた作品があると知り、入手したのが本作である。読んでみて、かなり衝撃を受けた。「僕の小規模な生活」も「うちの妻ってどうでしょう?」もkindleで買い直したが、本作はずっと電子化されないのが不満だった。最近になってようやく電子化され(たことを知り)、ようやく読み返すことができた。

僕の小規模な生活」を読んだ時は、須賀原洋行の系統の人かと思った。自分をネタにした作品で奥さんがどんどん存在感を増していき、奥さんを主役にした作品ができる。主人公である「僕」は非社交的ですぐネガティブ思考に走るが、奥さんは明るく前向きで、そんな奥さんに主人公が救われている……という構図がそっくりだと思ったのだ。奥さんを丸々太った容姿に描いている点も似ている(絵柄は似ていないけど)。

しかし本作を読むと、とりあえず公務員として仕事をしていた須賀原とは異なり、壮絶な道を歩んできたことがわかる(須賀原にもそれなりの修羅場はあったのだろうが)。

本作は「僕」が15歳から25歳までの10年間を描く。高校一年生から漫画家としてデビューし、ポツポツと作品が掲載されるが全く先の見通しが立たない時代まで。あるいは、ずっと付き合ってきた女性と同棲を経て入籍するまで。

「僕」は正直なところ、頭は悪いし性格も悪い、なかなかにイヤな奴なのだが、「僕」の抱えている「苦悩」は大なり小なり多くの人に共通するものだろう。そうした自分を、まだ苦悩の真っただ中にいるはずの作者が、ここまで客観視していることに驚いた。だからこの作品は面白いのだ。

注意が必要なのは、共感しつつも、つい、自分は「僕」に比べればまだマシだ、こんな「僕」でも漫画が雑誌に載ったり可愛い彼女と結婚できたりするんだから、と思いがちであることだ。そうやって前向きになれるならそれでもいいのだろうが、「僕」が高校一年生の時に漫画家をこころざし、ひたすら漫画を描き続けてきたことを見落としてはいけない。授業中も、彼女とのデートの最中ですら描く。それがいいことかどうかは別にして、この熱意と執念はおいそれと真似のできるものではない。

それにしても不思議な物語である。高校生で親元で暮らしていれば、そして留年したり中退したりすれば、親が何かを言うだろうし、実際いろいろ言われたのだろうが、本作には親が全く登場しない。もちろん、意図的に避けているのだろうが、その理由が知りたいところである。

もうひとつ、「僕」と彼女は、いつ「粘膜の接触」を行なったのだろう。「僕」はカップルを見るとそんなことばかり考える癖に、自分のことは言わない、描かない。当然かも知れないが、気になるところではある。



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