鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「とろける鉄工所」9

のろ鉄工、2000万円の不渡りをくらう。そのため、社員旅行も中止せざるを得なくなる。社長にとってはそれが何よりつらかったらしく、いつまでも「社員旅行が……」と悔しがっていた。そして(真っ青な顔をして)社員の旅行の代わりに盛大な忘年会を開くこと、来年の社員旅行は絶対に実施することを従業員に繰り返し約束する。

2000万円の失注(注文をキャンセルされる)ならなんとかなっても、不渡りということは、納品はとっくに済んでいるわけだろう。となると、その分の仕入れはまるまる乗っかってくるわけで、このクラスの会社だと、連鎖倒産の危機ではないのか。社員旅行に行かれる・行かれないのレベルで済んでいるのろ鉄工は、相当な優良企業なのか。

なおその年の忘年会は異様な盛り上がりを見せ、さと子に接近された吉川は気絶する。

社長の娘・涼ちゃんおよびその夫・池谷君登場。池谷は営業、涼ちゃんは事務担当。経営の厳しい時に人を増やすのは逆行するが、厳しい状況だからこそ、信頼できる人材を集め、テコ入れを図ったということか。小島は池谷を「次期社長ということだな」という目で眺める。

その涼ちゃん、社長そっくりの強面であることに加えて口数が少なく愛想がないため、小島以外の従業員から怖がられているが(小島は幼い頃から知っているようで、親しげ)、小島から「シャーリングがいかれた」と聞くと、すぐに修理の業者を呼んだり、北が休憩時間に缶コーヒーを飲んでいるのを見ると、冷蔵庫とポットを購入し、インスタントコーヒーの無料提供を始めるなど、なかなか手際がいい。まあ業者を呼ぶのは単に有能というところだが、コーヒーの無料提供は社長の娘なればこそだろう。普通の事務員にそんな権限はないから。

もうひとつ、職人談義。

吉川が突如開眼する。きれいな溶接を目指す必要はない、客からクレームがこなければそれでいいのだと。そうすれば短時間でできる、残業しなくていい、会社は人件費がかからない。北はそれはおかしいと思い、小島に相談すると、意外にも、仕事である以上、いいものを追求することはできない、という。自分だって、客が待ってくれるならもっといいものを作りたい。それを聞いた北は、(あれだけきれいなのに)もっといいものを作りたいのかと驚く。

小島いわく、腕があるなら吉川の考えもいいだろうが、今のままだと伸びないだろう、でも自分で見つけた答えがあるだけましかも、とも言う。北はどうするか。

作者のコメントによれば、連載当初から絶対に描きたかった話だとか。連載を始めていきなりこんな話を出すことはできないが、キャラクターがここまで出来ていた今だからこそ、吉川の境地もわかるし、小島の説明にも納得できるものがあるし、北の焦りもわかるのだ。

その他のトピックス:

  • 今井は社長の姉の息子だったことが判明。どうりで辞めた後も可愛がるわけだ(残業時に配布するパンを今井のところから購入するなど)。もしかしたら今井を跡継ぎに考えていたが、辞めてしまったので池谷を呼んだのか?(と小島は邪推する)
  • 前巻で、社長が今井を向上に呼びつけて何か話をしていたが、それは不渡りを食らったことと娘を呼び寄せることにしたことを告げるためだった。今井によれば、これは「のろ鉄工は大丈夫だから、気にするな」(無理に戻らなくてよい)ということを突和えたかったんだろう、と。
  • 東日本大震災が起きる。
  • さと子、家庭教師先で食事に呼ばれ、夕食をともにする。いつも一人で食事をしているさと子には、家族とともに食事をするのは(たとえよその家庭でも)ずいぶんと嬉しかったようだ。
  • ガスギャルの大野さんに彼氏ができた。何をしゃべっても指先からハートマークがあふれ出す。吉川に悟られてはならんと、小島と北が裏当てになるのだった……
  • 作者までが「孤太」を「ポコちゃん」と呼ぶようになった。


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