- 黒谷知也「書店員波山個間子」1, 2, 番外編
本当は一冊ずつていねいに感想を書きたいけど、まとめて。
作者の名前もタイトルも聞いたことがなかったし、人物の絵柄も正直なところ稚拙に感じられたが、表紙の背景に描かれている文庫本にうなった。新潮文庫は新潮文庫に、岩波文庫は岩波文庫に講談社文庫は講談社文庫にちゃんと見えるのである。うがった見方をすれば、写真に撮ってコラージュしたのかな、とも思えなくもないが、文字が活字っぽく書いているけれど微妙に歪んでいるから手書きなのだと思う。とにかくものすごくよく特徴をとらえていると感動したのだ。というわけで思わず購入。
内容は期待を裏切らなかった。主人公はAOHIGE BOOKSでただ一人のブック・アドバイザー。本に関して広範な知識を持っており、客の曖昧模糊とした話から的確に何の本かを当てていく。または、適切な本を推薦する。広範な知識と推理力、読書が好きで、本に囲まれて暮らしていること、しかし接客が苦手で客の前で妙にオドオドしてしまうこと。ビブリア書店の栞子をほうふつさせる。「せどり男爵数奇譚」という本も紹介されるので、作者も意識しているのかも知れない。ただし、波山個間子は別に美人ではないし、巨乳でもないし、アルバイトの男子に好かれたりもしない。もちろん店長でもない。
店長は女性で、波山個間子にブック・アドバイザーの肩書を与えた人である。この人の性格がなかなかいい。ちょっと変わった人だけど、波山個間子の能力を生かすにはどうしたらいいか考え、本人にも的確なアドバイスをする。豊富な知識とは裏腹に、世間知らずで幼いところもある波山個間子が、店長の指導もあって少しずつ成長しているところがまたいい。
あっさりした絵柄も内容によく合っており、気にならなかった。2巻で終わりはもったいないが、この手の作品は膨大な下調べが必要で、書くのは大変なのかな。
紙の本は角川書店から刊行されたらしいが、電子版は作者が個人で再刊行したとのこと。出版社がいつまでたっても電子化してくれないたら、個人でこうしたということか? 出版社がもっと電子化に前向きでありますように。