鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「死役所」1

  • あずみきし「死役所」1(新潮社バンチコミックス)

死役所 1巻 (バンチコミックス)

死役所 1巻 (バンチコミックス)

死役所は此岸と彼岸の間に存在する役所で、亡くなった人は必ずここを通り、自分の死について手続きをしなければならない。そこで人生を振り返るのがテーマである。かなりの人気作のようで、あちこちで名前を見るので、物は試しと読んでみることにした。

あずみきしという作家の作品自体初めて目にするのだが、妙な既視感がある。あれだ、「走馬灯株式会社」だ……。自分の人生を振り返り、そして……という設定が似ている。

ただし、「走馬灯株式会社」では走馬灯を見ている人は死んだわけではなく、その後社会に戻っていく。走馬灯で見た人とコンタクトも可能である。一方本作は既に死んでいるため、これまでの人生で関わった人と再び会うことはできない。恨みを述べることも、感謝の気持ちを伝えることもできず、ただ「振り返るだけ」である。

このような「異形の話」は基本的に好物である。面白いのだが、オチがない。あるいは、弱い。あと1~2ページ追加して、「それでどうなったの?」という部分をもう少し詳しく描いたら、ずっと面白くなったのに、と思う。

たとえば第1条(第一話)。いじめに遭って自殺した少年太一が主人公だが、太一をいじめた相手も太一の父に殺されて死役所にやってくる。父が、子の自殺の原因がいじめだとどうやって知り、いじめた相手をどうやって特定したのかが不明。日記を読んだのなら、両親にも原因があると書かれていたらしいが、親にどんな原因があったのか不明。両親が自分に無関心だったことが残念だったとでも書かれていたのか? それを読んで反省した父が、子供の恨みを晴らすべく実行に及んだのか? 殺した後はどうなった? 母親は知っているのか? 一切が不明。

太一は「おとうさんともっと話したかった」とだけつぶやき「成仏してきます」と去っていくが、もう一芝居ほしいのだ。あっさりし過ぎで物足りない。

第2条は、行き場をなくした涼子を親身になって世話してくれた鉄工会社の社長が、事故で死ぬところを、涼子が身を挺して救い、代わりに死ぬ話。涼子は、こんな年寄りを助けるんじゃなかったと、後悔している。また、親切に見えた社長は実は強欲で自分勝手、実は事故ではなく、事故に見せかけた殺人だった。なかなかひねりがあってよかったが、助かった社長が身代わりに死んだ涼子のことをどう思っているのかが描かれない。

そこは読者の想像に任された、余韻余情の世界なのだろうか。

いつもニヤニヤへらへらしているシ村が、第5条のラストで殺人犯をきっとにらみつけるところは凄味があった。

死役所のスタッフ

名前 担当 初登場
シ村 総合案内 第1条
ニシ川 自殺課 第1条
岩シ水 人為災害死課 第2条
イシ間 他殺課 第3条


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