変身願望は誰にも多かれ少なかれあると思うが、しがないサラリーマンの近藤静也が、サングラスをかけるだけで最強最凶のヤクザに変身するというのだから、多くの人の心をつかんだのも頷ける。スーツを着替え、サングラスをかけたとはいえ、カツラもつけず、付け髭もつけず、これだけで職場の同僚にバレないというのもいささかファンタジーだが、いったんヤクザになった時の静也の発するオーラがすさまじく、とても堅気には思えないということなのだろう。
静也はサラリーマンとしてはいささか能力に劣り、上司や同僚もその扱いに手を焼いているという前提ではあるが、現在の基準ではもちろんのこと、当時としても、セクハラ、パワハラが横行する酷い会社だ(当時はセクハラ、パワハラという言葉はなかったけれど)。一巻で、父が死に襲名披露のため一週間会社を休んであとで嫌味を言われるシーンがあるが、どんな会社だって親が死んだら忌引き休暇があるだろう。そもそも家からの電話を勝手に切ってしまうのは普通ではない。
二巻ではいろいろと動き始める。静也は同僚の秋野さんに惚れているが、秋野には婚約者がいて、近く結婚退職する予定。失意の静也は銀座のトップホステス理江と関係を持つ。が、秋野の婚約者も実は理江に惚れていて……?
一巻では、冴えないサラリーマンと親譲りの総長、という図式が示されたが、二巻の静也は酒豪で(鳴門「連日オレと飲んで平気なのは総長だけ」)、喧嘩が強く(蛭夜組の事務所に一人で行って全員を半殺し)、博打にも強く(競馬で1000万円以上? を当てる)、その上絶倫(百戦錬磨のはずの理江が静也にメロメロ)など、すごいところがこれでもかと描かれる。実に爽快である。
新鮮組の最大のライバル・鬼州組の坂本健登場。顔が高倉健そっくり。
読み返してみて改めて思ったが、静也は理江と結婚すれば、理江にとっても新鮮組にとっても、恐らく秋野にとってもよかったのではないか。静也はそれは厭かも知れないが、理江のことも嫌いではないのだ。一緒になれば、それはそれでうまくいったと思う。僕だったら秋野さんより理江の方がいいなあ。