鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「まどからマドカちゃん」1

  • 福田泰宏「まどからマドカちゃん」1(モーニングコミックス)

シュールな新感覚シチュエーションドラマ。サラリーマンの小田くんは通勤途中で際野まどかの住む(?)アパートの前を通るのだが、小田くんが通るときは必ずまどかちゃんは窓を開けて外を見ており、小田くんを見かけると何かを仕掛けてくる。

この「何か」とは、お寿司屋であったり、射的屋であったり、賭博場であったりする。

そして小田くんを巻き込んでいく。が、まどかは決してしゃべらない(ただし小田くんが意図を察して確認をとると、それに対してうなづく、という形での意思疎通は行なう)。

シュールというのは、初めて小田くんがまどかちゃんに会ったときは、部屋の中はごく普通のアパートの一室で、木の天井に電灯がぶら下がっており、ふすまの押し入れがあり、下着が洗濯物として部屋干しされていたりしたのだが、しばらくおまちください、といって窓を閉め、開けた時には寿司屋の店に内装が様変わりしていたこと。大きなガラスケースや各種ネタなどは、どこから持ってきたのか? さらに話が進むと、部屋の中に桜の木が生えていたり、釣り堀の池があって中を鮫が泳いでいたり、部屋全体がお風呂場になっていたりする。

さらに、まどかちゃんは寿司を握らせても一人前のようだし、手品もでき、皿回しも堂に入ったもので、マッサージもうまい。一体何者なのかと思う。これだけのすごい能力を持ちながら、まどかちゃんの「野望」は小田くんの気を惹くことだけのようなのだ。なんとかわいいではないか。

新感覚というのは、連載時のキャッチフレーズだったと思うが、こうしたタイプの作品を読むのは初めて。キャッチに偽りはない。新しいタイプの作品が生まれた、と思った

モーニングはずっと購読しているため、連載開始から読んでいた。最初は今風の絵柄の新人作家の短い話が始まったな、女の子はかわいいな、ぐらいに見ていたのだが、考えが変わったのは第9話を読んだとき。この回ではまどかちゃんはキックボクシングに取り組んでいる。小田君が朝の通勤時に見たときは素人丸出しだったが、丸一日サンドバッグを叩き続けているうち、パンチもキックもどんどん鋭くなっていき、帰宅時に通りかかったときはプロなみのレベルになっていたことだ。僕が注目したのは、まどかちゃんの動きが本当に達人のように描かれていたことだ。フットワークは宮田君並み、左フックは幕の内一歩並み。上段蹴りもキレッキレ。パンチはまだしも、切れのある蹴りを描くのは難しいのだ。正直なところ、池上遼一先生より上ではないかと……

基本はギャグ漫画なのだが、こういうところがきちんと描けると深みが出る。単行本の発売が2017年5月だから、連載開始は2017年初頭ぐらいのこと。



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