- 大場もも「フランス家族のニッポン滞在記」(Atelier Momo)
「ダーリンは外国人」以降、外国人を間近に見ている人による私家版比較文化論……的なエッセイ漫画が成立するようになり、一定のジャンルを獲得しているが、本作品もその流れを汲むものか。一般に「外国人」というと僕らは普通はアメリカ人を連想してしまうが(「ダーリンは外国人」のトミーがそうであるように)、本作に登場する外国人はフランス人である。
僕は(そして恐らく一般の日本人は)フランス人についてはアメリカ人に比べてはるかに知らない。といって全く知らないわけではなく、たとえば言葉は「ボンジュール」「シルブプレ」「トレビエン」「アデュー」くらいは知っている。何も知らないと興味がわかないが少し知っているともう少し知ってみたくなる。というわけでタイトルに惹かれ、購入してみた。
作者がフランス人であるティボと知り合い、恋に落ち、結婚し、出産するまでを描いたもの。とはいえ、出会ってから妊娠するまではあっという間で、(残念ながら)甘く切ない恋物語などは一切描かれない。出産間近になり、生まれてくる子をお祝いしようと、夫の家族やその友人など総勢6人が作者夫婦の家にやってきて三週間滞在することになり、その間のドタバタを描いたものである。
異国の地に住む息子に子供が生まれるとなれば、親としては孫の顔を見たかろう。しかし義両親二人が数日泊るだけでも気遣うものである。それを親戚ですらない人まで連れて「6人」で「三週間」も泊っていくとは驚きである。泊る方だって気づまりではないのだろうか? 僕が作者の立場なら迷わず近くのホテルを薦めるところだが、作者はいろいろと行き届かず「申し訳ない」と思っている点も驚きである。
もっとも、土地57平米、居住面積120平米とのことだから、首都圏の基準で考えると相当に広い家である(我が家の二倍ある)。広島だとこれが標準なのだろうか?
フランス人の日本人との違いはそれなりに面白かった。一番興味深かったのは、日本のパンとフランスのバゲットとの違い。なんとか日本にいる間においしいパンを食べてもらいたいと思い、あれこれ探す作者に、夫のティボ氏が、そんなことしなくていい、彼らは別に日本にフランスを探しに来たわけではない、と断じるところが面白い。それはそうだよね。もし僕がフランスへ旅行して日本料理店で残念な気持ちになったとして、僕がフランスにいる間においしいお米を探します! と言われても、いや別に、ご飯を食べに来たわけではないし……とは思うわなあ。でも日本人として、おいしいパンを一度は食べてもらいたいという気持ちもわかる。ここが本書のハイライトのように感じた。
それにしても、出版社の明記がなく、発行所として「Atelier Momo」とあり、もしやと思ったら、これは大場ももの個人ショップのようだ。
なぜちゃんとした出版社ではなく自費出版になってしまうのかは一考に値する問題だが、本書の評からは離れるのでここでは論じない。2021年1月15日発行。続編の企画もあるようだ。期待しよう。