- 池田邦彦「でんしゃ通り一丁目」1(日本文芸社)
ある作家の本を購入すると、Amazonのサイトを見た時に「おすすめ」にやたらと作品が並ぶ。正直、池田邦彦がこんなにたくさんの作品を発表していたとは知らず、驚いているが、ついつい買ってしまう。しかし今のところはずれがないのはすごい。
本作は2011年11月から「週刊漫画ゴラク」にて連載開始。時期としては「シャーロッキアン!」と並行して(本作の方が少しあとだが)描かれたことになる。
昭和30年代、17歳の田口則子(ノン子)は、東京で質屋を営む叔父のもとで行儀見習いをかねて働くことになり、郷里の福島から上京してくる。この子の東京での生活と、都電の車掌である野村正義との淡い恋を描いた物語。
第一話ではいかにもおのぼりさんの田舎者だったノン子が、だんだん都会になじんでいく描写が見事。
第一話で悪質な白タクに引っかかったというが、素直に駅前からタクシーに乗っていればこんなことにはならなかった。そもそも数時間かけて東京を案内させたのだから、相応の代金を払ってしかるべきで、悪質というのは言い過ぎではないか。お釣りを払わなかったり暴力をふるおうとしたから、その点は悪質には違いないが。
戦後、生きるために盗みを働いた少年が、握り飯を食べさせてくれた駅員に、大人になってからお礼を言いに来る話が秀逸。「他人のこととして話したから、普通なら言えないような本当の気持ちが言えたんだろう」という話を聞いたノン子が、「知り合いの女の子のことなんだけど」と言って野村に思いを伝えるシーンが見事。でもにぶちんの野村は気づかないのであった。