鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ゴルゴ13」7

内容

  • AT PIN HOLE
  • Dr. V・ワルター
  • 国際ダイヤモンド保安機構
  • 番号預金口座

雑感

AT PIN HOLE

2巻の「檻の中の眠り」で「僕が読んだ限りのゴルゴ13のエピソードの中で一、二を争う傑作である」と書いたが、一、二を争っている相手が本作である。

普通に考えたら、できるはずのない、当たるはずのない困難な狙撃を成功させて「すげえー!!」と読者が痺れる、というのは「ゴルゴ13」という作品の大きな魅力のひとつで、そこに焦点を当てた作品がいくつもあるが、その中でも最高のものではないかと思う。

1km先のフットボールを射抜く狙撃である。FBIが依頼した時、「狙撃はともかく、時間がなさすぎる」といっていったんは断わる。依頼した方も準備に時間がかかることは理解していたようで、「できるだけ引き延ばす」ことを約束する。この超長距離狙撃を成功させるには、相応の道具(銃と弾丸)が必要なのだ。

ゴルゴはデイブ・マッカートニーに会い、3時間でオーダーメイドの銃を作るよう依頼。デイブはそれに答えて最高の一品を用意する。この「いい仕事をするためには道具が大事」「準備に時間をかける」あたりがゾクゾクくるところ。

対比として、ゴルゴの代わりに狙撃をするよう指名されたFBIの人間は、オリンピックの射撃で金メダルに輝いた豪の者らしいが、いつも使っている銃を構え、そして「無理です」と答えている。彼には目的に合わせて銃を変えるという発想はなかったようだ。

準備をしている間、ゴルゴが「急いでいる」と言ってもその緊急度を理解していない周囲がのんびりしている様子と「俺は急いでいるんだ」というゴルゴとの時間感覚の違いも興味深いところ。もっとも、ワカッテナイ支配人はともかく、FBIのリーガン部長がマイケル・ハワードにゴルゴ13を直ちに釈放してCIAに引き渡せ、と命じるとことはもう少しスピーディーでもよかった。一刻を争うのにちょいとおしゃべりが過ぎる。

撃ち終わったあと、くどくどした説明がなくさっと姿を消すラストシーンも素晴らしい。

依頼料は10万ドル。難易度を考えるとちょっと安い気がしなくもないが、FBIが一回の狙撃に用意できる金額はそのあたりが上限なのだろう。

ゴルゴは今回のデイブの仕事がよほど気に入ったらしく、その後、何度も彼に依頼することになる。*1

CIAフラガナン「きみのプロとしての実力を見込まれたという、そのことのために……ひきうけてくれ!」

「わざわざここまで来て、この辺のものを一丁いただきます……と買っていく客もあるのか?」

「デイブ!」
「え!?」
「ありがとう……」

Dr. V・ワルター

狙撃自体はそれほど難しいものではなかったが、依頼者が裏切って始末しようとしたのを返り討ちにするパターン。

国際ダイヤモンド保安機構

かつてゴルゴに狙われた肉親が復讐するパターン。ゴルゴをとある大人物と思わせて著名な殺し屋に仕事を依頼するが返り討ちにあう。ゴルゴの解説によると「そうなると、相手が素人だと思ってしまうということだ……奴らが車の前に飛び出してきた時、その襲い方でおれをプロとして襲ってきたのじゃあないとわかった……」

依頼料は5万ドルを前金と言っていたから全部で10万ドルか?

番号預金口座

大金持ちが、生まれ変わって新しい人生を生きるために、ゴルゴに自分を狙わせて替え玉を撃たせ、別人になることを計画。もちろんゴルゴに見抜かれて最後は本当に殺されるのだが、そこに到るまでには、金持ちの苦悩(周囲の人間が皆自分にお世辞を言ってきて誰も信用できない、とか、何をしていいかわからない、とか)、自分を裏切った者への復讐、ゴルゴ13を騙す手口など、いろいろ複雑でちょっと面白い。佳作。


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*1:「アニオタWiki」には、デイブ・マッカートニーについて「ゴルゴからの無茶振りに驚くが、彼もまた一流のプロであり、自らの誇りをもってゴルゴの期待に応えた。その結果、事あるごとにゴルゴの無茶振りに振り回されることになってしまうのを彼はまだ知らない」と書かれている。