鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「岡崎に捧ぐ」(全5巻)

ビッグコミックスペリオールに2015年から2018年にかけて連載された作品。小学生の時に知り合った岡崎さんとの、その時以来現在までの友情を描いたもので、ほぼ事実に基づいているらしい。

ここのブログでは基本的に自分が面白いと思った作品を取り上げており、気に入らなかった作品をあげつらうためだけに記事を書くことはしない方針であるが、この作品に関しては記録として残しておきたい。

とあるブロガーさん、その人は10年以上前からずっと記事を見ていて、その発言内容に僕がかなりの信を置いている人なのだが、その人が数日前に、「岡崎に捧ぐ」は今年読んだ漫画の中で一番面白い、最後は泣けた……というようなことを書いていたので、それではと思って読んでみた。

一巻、二巻と読んでみたが一向に面白くならない。今を耐えれば最後は一気に盛り上がるかと思って最終巻まで買って読んだが、このブロガーさんがいったいどこに涙したのかわからないまま終わった。

好みの違いもあるから、そういうこともあろうが、このレベルの作品がスペリオールというメジャー誌に連載されていたことに驚く。その上、「このマンガがすごい!」2016年オトコ版で8位だったり、「マンガ大賞」2016で10位だったり、結構いろいろな賞を取っているのである。いったいなぜ……?

まず絵がうまくない。世の中にはささっと一見雑な筆致で実はうまいという類の絵もあるが、この作品は単に下手なんだと思う。

ストーリーに山がない。岡崎さんが、最初はまともに見えたけどどんどん病んでいくとか、気まずくなって4年間、連絡を取らないでいる間に死んでしまったとか、そういうこともなく、岡崎さんはまともに育ち、4年ぶりに再会して改めて友情を確認している。実話だからそれでいいのだけど、漫画作品としては盛り上がりに欠ける。

主人公に魅力がない。小さい頃は毎日が楽しくて仕方なかったが、年を取るにつれてどんどん自分の居場所がなくなっていく、つらい、空しいと描くが、自分の居場所を作ろうという努力を何もしていないのだから、当たり前としかいいようがない。青春あるあるかも知れないけど、一年浪人しても志望校しか受験しないとか、志望校に落ちたらそのまま再受験もせず就職もせず無職引きこもりになるとか、20歳近い人間の行動とは思えないし、またそれを黙って許容する親も親だと思ってしまう。

話に深みがない。岡崎さんの親は自由人とか放任主義とかいうレベルではなく、はっきりネグレクトだっと思うし、作品中でもそう触れてはいるが、そのことが具体的に岡崎さんの性格形成にどのように影響したのかといった観察・分析はない。作者の親も「過保護で世話焼き」とはいうが、必要なしつけができておらず、いわゆる「やさしい虐待」になっていたと思う。そのことに、大人になった今の作者は気づいていなければいけないが、そのことも触れられていない。物事の見方が表面的で掘り下げられていない。

読むのが不愉快というほどではなかった(からこそ最終巻まで買った)が、とても面白かったとはいえない。例のブロガーさんが推奨していなければ、別の形で本作に出会っていたとしても、一巻を読んでやめただろう。


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