鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「僕はまだ野球を知らない」2

  • 西餅「僕はまだ野球を知らない」2

おおきく振りかぶって」が下敷きになっているのは間違いのないところではないかと思う。かなり類似点がある。

宇佐監督は野球の未経験者。モモカンは野球のプレイはどの選手よりも(恐らく)うまいが、女子であるがゆえに試合出場の経験がないという意味では未経験者。

投手・水巻のストレートはバックスピンがかからず通常より早く沈む。これをくせ球として活用する点は、レンレンの癖のある直球(こちらは浮くように見える点が逆だが)を思い起こさせるが、要はスピードボールだけが打者を押さえる方法ではない、球威がなくても工夫次第で投手として通用するということを言いたいのだろう。

直井というシニア出身者がいて、資質という点では選手の中で一歩抜けている。小柄であるということも含め、田島を彷彿させる。もっとも田島と違って当初は宇佐監督のやり方やチームメイトに対して批判的・非協力的だったが、この点は女が監督だから辞めると言った花井を連想させる。なお田島も花井に対し、真面目な顔で「もっと本気になれよ」と文句を言ったことがある。

主将の吾妻のリーダーぶりは花井とかぶるが、そこまで指摘してはこじつけ過ぎか?

ただし根本的に異なることもある。「おおきく振りかぶって」のひとつのテーマは、ダメピーと思い込んでいたレンレンが阿部のリードやモモカンの合理的な指導により勝てる投手となり、自信を取り戻すことであるが、彼がダメピーと思い込んだのは昔のチームメイトの(いじめに近い)態度である(当時の監督も一枚かんでいたかも知れないが)。モモカンの指導法は十分に先進的ではあったろうが、作品では他校の旧弊な指導法を批判することはしていない。

本作では、中学やシニア、あるいは前監督の指導に代表されるような、監督や上級生の指示に絶対服従、合理性のかけらもない猛練習、欠点ばかりを指摘する指導などにより、選手は野球が楽しいと思えず、劣等意識を肥大させていく、旧態依然とした指導・伝統を正面から批判している。それは、2003年に連載が始まった「おおきく振りかぶって」と2017~2020年の本作との時代の差でもあるだろう。

ところで、練習試合で浅草橋工業高校は強豪に対してよく食い下がるが、宇佐監督が大量失点してベンチに戻ってきた水巻に「十分すぎるデータも取れました」とねぎらい(?)の言葉をかけたことに、チームが反発するシーンがある。選手は勝とうと思ってやっているのに、データが取れたからそれでいいとはなにごとかと。ここに違和感を覚える。

練習試合の目的は必ずしも勝つことではないはずだ。いろいろなパターンを試し、何がよくて何がダメなのかを見極め、今後の練習の課題をはっきりさせることが目的で、むしろ勝つことにこだわり過ぎては意味がないと、素人の自分でも思う。現場の選手はやはり試合となれば勝ちたいだろうし、自信を喪失している水巻を勝たせてやりたかったのも本音だろうが……


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