鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「シャーロック・ホームズの蒐集」

北原尚彦が自身もパスティーシュを書いているというので、購入してみた。まあ、面白いことは面白い。なんにしても、ホームズものの新作が読めるというのは楽しいものだ。

本作は、「語られざる物語」をふくらませたものだが、この中にさらに「語られざる物語」がいくつか埋め込まれている。また、アセルニ・ジョーンズから「暇なら来てください、暇でなくても来てください」というメッセージを受け取り、「今度、僕もこの手を使わせてもらおう」とつぶやく……といった「コネタ」も散りばめられている。なかなか凝った作りである。

しかし、正典とはかなり雰囲気が違う。まず「遅刻しがちな荷馬車の事件」をはじめ、タイトルがそれっぽくない。

それから、話の展開に疑問を感じる箇所が多い。たとえば「遅刻しがちな荷馬車の事件」では、デパートの配達員が、配達の途中でパブで一杯やって、そのため配達が約束の時間に間に合わないという事例が頻発し、顧客からたびたびクレームとして経営者の耳にまで届いていたにも関わらず、まともな調査も行わないなどというのは信じがたい。「結ばれた黄色いスカーフの事件」は、前半は「オレンジの種5つ」を彷彿される(二番煎じな)展開、また犯人の素性は意外だったが、殺人の訓練を受けた「殺し屋」を取り押さえて拘束もせずに尋問する(そのため途中で逃げられる)など、不手際もいいところである。

そもそもホームズのキャラが原作とはだいぶ違う。たとえば「女性のことならワトソン君の領域だ」的な言い回しを何度もするのが気に障る。確かに朴念仁のホームズに対してワトソンは恋愛経験がそれなりにあると、自身で語ったくだりもあるが、正典を通じて彼が女性にだらしなかったことは一度もない。こんな風にからかわれなければならないいわれはないはずだ。他にもいろいろ……

「特にパスティーシュらしいものを書いてやろう」と考えて書いたという作者には申し訳ないが、本作はどちらかというとパロディに振れているのではないか。



漫画・コミックランキング