鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ひとりでしにたい」3

  • カレー沢薫(原案:ドネリー美咲)「ひとりでしにたい」3(モーニングコミックス)

終活のお勉強漫画を見ているつもりが深い人間ドラマにどんどん引き込まれていく。その上3巻ではミステリー的な要素もあり、意外な展開に気持ちよく驚かされる。なんというすごい作品かと思う。本作品に接した人は、少なくとも3巻までは是が非でも読んでほしいと思う。この感動を分かち合いましょう。

本巻のメインテーマは両親の離婚である。母親は一方的に熟年離婚を考え、離婚経験のある友人に聞いて回ったりして情報を得、住むところまで考え、あとはどのタイミングで切り出すかという一触即発状態。

離婚はしない方がいい、と信じる鳴海は、何とか阻止すべく、今一人になっても経済的に大変だという話をすると同時に、何が気に入らないのかヒアリング。要は、父が何もしないのが我慢できないという。働いていた時は、家の中のことに無頓着でもお金を稼いできてくれるからと我慢できた。が、定年後の今も、終日家にいて何もせず、すべて自分にやってもらう気満々なのは……。

それならお父さんに何かやってもらえばいいのでは、と那須田。過去は変えられないけど、過去のことはそれなりに割り切れていて、現状に不満があるなら改善の余地がある。そこで今さら家事もできないだろうから、終活を父主導で進めてもらったらどうかと考えるが、母は激怒。余計なことを父に言うな、と。

離婚しない方がいい、というのは鳴海にとって「いい」というだけで、当の母にとってはそうではないのだろう、そこまで決意しているなら、その意思を尊重すべきだという那須田だが、鳴海は引っかかるものを感じる。お父さんのあそこが許せないここが許せないという割に、父に対してそこまで強い感情を母が持っているとは思えないのだ。

そこで鳴海は最後の説得を試みる。どうするつもりですか、と訊く那須田に、言ったらバカにされそうだけど、お母さんのことをバカにされたくないから、君には言うのをやめておく、と答える(これもすごいセリフだ)。

あなたとは話し合う気はないと言い、LINEを送っても既読無視の母を引っ張り出すための作戦もすごい。母が私と同じオタ気質なら、ニワカの煽りを無視できないはず、と、母の趣味であるHIPHPOに対して「最近私もHIPHOP始めたけど簡単だね~」と、自らの踊りを動画に撮って送る。そうしたら見事に母から返事が来たというわけ。

鳴海の指摘する、母が離婚したい本当の理由は、言われてみれば納得だが、少なくとも僕には思いつかないことだった。しかしわかってみれば、母のこれまでの半生に巣食う「業」も思い知らされ、改めて苦労が偲ばれるし、鳴海はそれに気づかなかった自分を素直に反省し、母に対して謝罪とこれまでの感謝を述べるのだった。やはりなんだかんだで鳴海は「素直でいい子」だ。

今回の話の発端である「伯母の孤独死」は、思ったよりのちの展開に影響を及ぼしていたが、ここで本当の意味で回収される。見事な問題提起であり、伏線の張り方だ。

これが現在の最新刊なのが残念なくらい。



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