鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「幽子と俺の奇妙な日常」

  • 山内規子「幽子と俺の奇妙な日常」(青泉社LGAコミックス)

作者もタイトルも初めて見るが、Amazonをうろうろしていて何となく惹かれるものがあったため、ポチってみた。とても面白かった。こういうことがあると「生きているのは悪いことばかりじゃない」と思う。

短編集。「幽子と俺の奇妙な日常」という作品が全1巻で描かれるのかと思ったら、そもそもそのような作品はない。冒頭の「ムーンライト」に幽子が登場するから、この作品のことを指していると思われるが、3話で終了。全体の半分にも満たない。

全体としてはホラー&サスペンスもの、ということになろうか。ミステリー要素も多い。

「ムーンライト」は、幽霊が登場するものの、基本はあっけらかんとしたラブコメ。ただし幽霊が何に未練を残していて成仏できないのか、思いを果たしたあとの展開など、意外性の連続で、上質のミステリーを読んでいるかのようなカタルシスが得られた。終わってみれば大団円で読後感もよい。ただし、貴吉クンに振られる実樹だけは救いがなくてかわいそうだ。貴吉が「幽霊のせいだ」と説明してもすぐに信じられないのは仕方ないが、そこで、「じゃあそういうことでいいよ」と諦めてしまうのは実樹にも、自分自身にも、周囲の人に対してもよくないと思う。これだけ状況証拠が揃っているのだから、きちんと説明すればわかってもらえたはずだ。*1

それ以外の短編は、ハッピーエンドもあればアンハッピーエンドもある。幽霊に殺されると思い込んでいたら、実はその幽霊は自分を守ろうとしてくれたのだ、という話もあれば、本当に幽霊に殺されてしまう話もあり、予断を許さない。

いい本と作者を見つけた。ほかの著書も読んでみよう。

ところで、奥付がなく、出版社や発行日がわからない。検索して青泉社刊であることはわかったが、発売日は青泉社のサイトでは2015年9月19日になっており、Amazonでは2016年9月30日になっている。オリジナルが2015年でkindle版が2016年なのか? 紙の本で奥付がないものは記憶にないが、電子書籍ではしばしばあるのはなぜだろうか。重要な情報だと思うのだが。

初出一覧

作品名 掲載誌 出版社 掲載号
ムーンライト ぶ~け 集英社 2000年1~3月号
夏休み さくら愛の物語 あおば出版 2003年8月号
飛ぶ子供 サクラミステリー あおば出版 2001年7月号
聞こえない声 サクラミステリー あおば出版 2001年1月号
冷たい指 サクラミステリーデラックス あおば出版 2006年9月号
俺と真弓のその後の話 描きおろし    

あおば出版は2007年に倒産して今はない。ついでに「ぶ~け」も2000年に廃刊になっている。合掌。



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*1:幽子に取り憑かれた貴吉は不本意ながら同居(?)生活を送ることになるが、挙動不審な貴吉を見て規子は自分のほかに好きな人ができたのだと誤解してしまうという話。