鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「キックの鬼」6(完結)

5巻の後半から、タイでは打倒沢村を本気で考え、プロレスラーのキングコングを招聘し、ルール違反にならないプロレスの殺し技の修得に励む話が約一巻分にわたって描かれる。このあたりはかなり嘘くさい。

当時、投げ技を使うタイ国選手がいたのかどうか、僕は事実は知らない。しかし、タイ人がタイ式に誇りを持つのならば、タイ式の技に磨きをかけるだろう。プロレス技で仮に沢村に勝ったところで、それはプロレスがキックに勝ったというだけで、タイ式が勝ったことにはならない、とタイ式の選手は思うと思うのだ。

それに、これは漫画を読んでの感想というより、僕の持っている総合的な知識からの判断だが、当時のタイ式にとって、別に沢村の存在は脅威でもないし、まして本気で打倒を誓う相手ではなかったと思う。ランキング入りするような一流選手は、長期遠征して自国で試合をしなければランクが下がってしまうから、好き好んで日本に行くとは思えない。一方、二流どころの選手にとっては、日本という市場ができたことでいい商売になったのではないか。

これまでの対戦相手は、ライト級チャンピオンとかミドル級チャンピオンとか紹介されたが、そのタイトルが虚偽でないとしても、まさかルンピニーやラジャムハラ認定のタイトルではないだろう。どこか小さな組織の認定する草タイトルではないか……

さて、最終章は沢村の100連続KO勝ちを収めたところで幕を閉じる。どんな世界でも、100連勝だって大変なのに、100連続KOは確かにすごい。

そして、栄光のうちに幕が降り、希望を持たせた終わり方になっているのも好感が持てる。梶原一騎のスポーツ漫画は、ハッピーエンドのものがひとつもない。「タイガーマスク」も「あしたのジョー」も「巨人の星」も、最後は主人公の破滅で終わる。*1事実に基づいた話だから勝手に主人公を殺したり再起不能にしたりできないからではあるが、こうした終わり方にほっとした。



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*1:柔道一直線」に到っては、最終章が単行本に収録されていない。