鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「キック魂」1~3(完結)

  • 梶原一騎、南波健二「キック魂(ガッツ)」1~3

Amazonの「おすすめ」機能がなければこの本の存在を知ることはなかっただろう。

キックの鬼」は「少年画報」の1969年2号~1971年8号に連載されたもの。本作は同じ少年画報社の「週刊少年キング」に、やはり1969年の16号~52号に連載された作品。画家は違うが(似ているが)、同じ原作者により同じ人物を描いた作品が、同じ時期に、同じ出版社の雑誌に掲載されるというのは、ちょっと想像がつかない。

そこまで沢村に興味があるわけではないのだが、気になるので(全3巻と短かったこともあって)購入してみた。

描かれるエピソードはほぼ同じ。週刊連載だから本作の方が先行したと思われ、とすると、本作のエピソードをもう一度ていねいに描き直したのが「キックの鬼」ということになるのか?

一か所、「キックの鬼」で疑問に感じ本作で解消したことがあった。それは、沢村が当初東洋ミドル級チャンピオンだったのは、選手層が薄く階級はライト、ミドル、ヘビーの三階級しかなかったから。のちに7階級が制定され、沢村はライト級のチャンピオンとなった、という説明があった。これは大切だ。

キックの鬼」ともう一つ違う点、それは作者自身が顔を出していることである。出版社の人と一緒に食事をして時間が過ぎてしまい、あわててタクシーで上野に向かったエピソードは「キックの鬼」「キック魂」双方に出てくる。取材するのは当然だが、取材しているところを作品に取り込むことは、普通はしない。ただしこの時の梶原一騎は one of them で、どれが梶原だかよくわからない。つまり目立たないように描かれていた。「キック魂」ではこの時とは別に、初めて沢村に会った時のことが描かれており、この時は梶原一騎一人で、大きく、目立つように描かれている。

こうした自己顕示欲の塊は梶原一騎特有のものである。ただし本作においては、顔は出ているが、話を聞くだけで、それ以上の関わりを持とうとはしていない。持ちたいと思ってもできなかっただろうけど。

連日の試合で疲れ切り、思わぬ敗北を喫した試合から立ち直るところで話は終わる。同じ話を並行して書くのが大変だったのか、人気がなかったのか、ちょっと打ち切りっぽい印象を受ける。

南波健二は今回初めて名前を耳にしたし、他の作品は知らない。しかし貸本屋時代からの生き残りで、それなりの人気作家だった(時代もあった)ようだ。

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キックの鬼」と同じエピソードでも、読者層の違いを考慮し描き方を変えていたという。僕はそこまでは感じなかったが、そういうことはあるかも知れない。


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