鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「そしてボクは外道マンになる」4(完結)

  • 平松伸二「そしてボクは外道マンになる」4

「ブラック・エンジェルス」の連載スタート。人気は上々だが、登場人物に感情移入して描くため、執筆中の作者はかなり「アブナイ人」になっており、そのために何度も夫婦の危機を招く。

さまざまな苦労の乗り越え、最後の連載と意気込んだ「そしてボクは外道マンになる」も人気低迷のため打ち切り。最後の原稿を上げた後、血を吐いて倒れる。

というような話である。

妻の男性遍歴を公開してしまっていいのか、疑問が残る。連載開始時に、実名で登場する人は全部事前に了承をもらっている、と描いていた。奥さんからも了解をもらっているならよいが、平松伸二の配偶者は(Wikipediaによると)安江うにという劇画原作者で、小岩出身という。ならば岡山の高校の同級生というのは架空の設定ということになるが、高校時代の二人の写真もあることから、全くの創作とも思えず、そうすると安江うには再婚相手で、ここで描かれている美奈子は最初の相手と考えられる。別れた妻のことをこんな風に描いてよいのか、気になるところである。

全4巻を読んで総括的な感想を。

「勧善懲悪」は物語の典型的なパターンである。類例はたくさんあるし、名作も多いが、ひとつ間違えると次のような疑念を残す。

  • 「悪」はそもそも本当に悪いことをしたのか?
  • 「悪」の側に情状酌量の余地はないのか?
  • いくら相手が「悪」だからといって、滅ぼしたり殺したりしていいのか?
  • 法律に違反した犯罪人なら警察に任せるべきであり、私的に報復するのはよくないのではないか?

こんな風に思われたら物語は失敗である。

平松伸二は「悪人」を描くのがうまい。「こいつ、許せない!」と言いたくなるようなひどい人間を描き、ルール違反だろうがなんだろうが知ったこっちゃねえ、俺がこいつをぶっ殺してやる!! ぐらいのことを読者に思わせ、その代わりを「懲悪」の側の人間が演じるから、やり過ぎても読者は許すのである。ここに平松伸二の真骨頂がある。「ブラック・エンジェルズ」も「マーダーライセンス牙」も「外道坊」もみな同じだろう。

本作は、実在の人物が登場するセミ・ドキュメンタリである。イヤな奴が出てきても、存在を抹消するわけにはいかない。そういう「イヤな奴」が毎回登場するのは、読者の側としてはつらい。何度も登場する人はもっと魅力的な人でないと困る。そういう「描き分け」ができなかったところが、本作が長く続けられなかった要因ではあるまいかと分析する次第。そもそも、平松はそこまでの人気作家ではなかった、という説もあるようだが、島本和彦のように、もともと人気作家ではなくても、作品を描いているところを描くのがうまければ、それ(アオイホノオ)が人気作になったりするのだ。

以前にも書いたが、このような作品は史料的な価値もあるので、人気うんぬんにはあまりこだわらず、鷹揚な気持ちで続けてもらってもよかったのではないかと思うが、現在の出版事情がそれを許さないというところか。



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