- 山内規子「恋愛タイムトラブル」(青泉社)
タイムトラベルではなくタイムトラ「ブ」ルである。紙版は2014年、電子版は2016年刊。ともに青泉社。ぶ~けに掲載された作品なのに、集英社から刊行されているわけではないんだなあ。
悠希はびっくりすると5分間時間を遡れる、という特殊能力を持っている。その能力を生かして小さな危機を回避したりしていたが、いつしかその能力を使うと激しい頭痛が起きるようになり……というのが基本設定。
悠希は両親と死別したなどの経験から、親しい人と別れる辛さを回避するため、ある程度以上親しい人を作らないようにしていた。不倫相手の片瀬も同じで、他人に自分をさらけ出さない・他人に踏み込ませない生き方をしており、その感覚を共有できるという理由だけで人肌が恋しい時の相手役に互いを選んでいる。つまり恋とか愛とかの感情はない。
ところが、その片瀬の妻の弟の千早が悠希と同じ大学の学生であることがわかり、悠希は千早に惹かれ始める……
という恋愛物語が一方の軸にある。そして、なぜ悠希にそのような能力が与えられたのかが解き明かされた時は、結構なカタルシスを得られる。今のところ山内規子に外れはないが、中でもこれは傑作の部類だろう。
同時収録の「大きな木の下で」は哀しい話だ。両親が離婚して、父と母がそれぞれ双子の子を一人ずつ連れていくのは、大人の事情があったのだろうが、二人一緒にどちらかが引き取ることはできなかったのか、とか、連れていく子が逆だったら、このような悲劇は起きなかったのではないか、とか、父は再婚するが、離婚してから出会った人ではなく、婚姻中からの浮気相手だったこの父はクズだなあ、とか……。すぐれた短編。