鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「霊能者ですがガンになりました」

コミックエッセイ、紙版は2019年2月9日、kindle版は2019年3月7日刊。

小林薫と霊能者とは異色の取り合わせだと思ったが、小林薫が霊能者なのではなく、霊能者を自称する人が癌にかかった闘病記録を小林薫が漫画化したということのようだ。

その自称霊能者とは、斎(いつき)という名前だが、この本を読んだ時点では聞き覚えがあるような、ないような名で、むろんどんな人かまるで知らなかった。表紙と1ページ目の絵(全身・上半身・顔)を見て、男性かと思ったくらい。マンモグラフィについて、当人と小林薫が話をするシーンがあり、それで女性なのか(小林薫も)とわかった。

というわけで知らない他人のよくある癌の闘病記を淡々と読んでいたのだが、漫画の最終ページをめくったあとに、編集者の「連載途中ですが帰らぬ人となりました」とのコメントにものすごくショックを受けた。

漫画の連載途中に、作者逝去のため未完、というのは、梶原一騎の「男の星座」をはじめ、例がないわけじゃない。が、闘病記の途中でというのは、例があるようでないのではないか。

明るく前向きに向き合っていたから、まさかという思いもあった。読み返すと、当初からかなり危なかったことが示唆されているが。

知らない人なのに、読み始めるまでは知らなかった人なのに、読み進むうちにすっかりこの斎という人のとりこ……は大げさだが、親しい……とも違うが、かけがえのない……、要は好きになっていたのだ。だから突然カットアウトとなってしまい、ショックを受けたのだろう。小林薫のキャラの立て方がうまいのだろうな。それともご本人がそれほど強烈な人だったのか。

亡くなられたのは2018年10月7日だという。まだ3年ほどしか経っていない。ご冥福を祈る。



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