鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「悪魔のいる天国」

読んだことのある話があるなあと強烈な既視感があった。星新一の小説は若き日に一度は(あるいは、二度三度)読んでいるから、覚えがあるのはおかしくないが、そんな遠い昔の話ではなく、つい最近のことである。不思議だなあと思ったら、「ボッコちゃん」重複が六編あるのだそうだ。あとがきにそうあるから、当時から気づいていたもよさそうだが、全く知らなかった。まあ、全36編だから六編程度の重複はどうということはない。

本作で最も印象に残るのは「情熱」である。遠い星まで調査に行くにあたり、長い年月がかかるため、一代ではとてもたどり着けないから、子を産み、その子がまた子を産み、三代かけてたどりつこうという計画である。最初に乗り込む宇宙飛行士は男女二人ずつの四人。

子ども心にタッタ四人で大丈夫なのかと思った。確実に子供ができるのか、また、男一人女一人という具合に都合よくいくものか、生まれた子供が宇宙飛行士に適している保証は、そもそも宇宙で生まれ、親以外に誰も人のいない閉鎖空間で精神が正常に育つものなのか、三代かけてたどりつくのであれば、恐らく数百人が乗り込まないとダメだろう……。

初代はある年齢までは生まれた星で普通に育った。三代目は目的の星に到着し、新たな局面を迎えた。それが筆舌に尽くしがたいほど過酷である可能性もあるが、さいわい、物語ではその星の人たちは科学文明も発達し、友好的であった。悲惨なのは二代目である。狭い宇宙船で生まれ、宇宙船で死んでいく。四人の親たちと、配偶者、そしてたった一人の子ども以外、誰とも触れ合うことのない人生。これほど空しく、残酷なことがあろうか。考えてみると恐ろしい話だ。



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