- ツルリンゴスター「君の心に火がついて」(KADOKAWA)
WEBメディア「DRESS」連載作品。2022年5月26日刊。
個人的に、今年の上半期に発売されたコミックスの中でベスト1に推したい作品。
帯に記されている内容紹介を転記する:
私の心を閉じ込めていたのは“無自覚の私”だった――
夫婦のすれ違い、男女の恋愛に違和感を持つ女子高生、60歳からの新しい恋、男子学生のメイクなど、「常識から外れてしまうから……」「大切な人をこれ以上傷つけないために……」「私が我慢すれば……」と、自分の気持ちに蓋をしてきた主人公たち。そこへ、人間の心に灯る“火”を食べて生きる妖怪・焔(ほむら)が突然現われては、心の中の火種を見つけ、絶やさず変化を生み出していく8つの物語。
第一話は以前ネットで読んだことがあった。その時にちょっと衝撃を受け、本になったら買いたいと思っていた。それが一冊にまとまって発売されたことを知り、さっそく購入して読んでみたわけだが、8話+αがまとまってきたので、衝撃も強かった。
第一話を読んだ時には、視点はいいが、これで終わりは物足りない、このあとが大事じゃないかと思った。第二話はまたがらりと変わって、これも面白い視点だが、主人公の翔のことは一応これでケリがついたとしても、麗香のことはどうなったんだ、尻切れ蜻蛉じゃないか、と少し不満に思った。
大丈夫、実はそのあとの話でちゃんと続きが描かれる。さらに、これは単行本描き下ろしなのだと思うが、それぞれの「その後の話」も描かれ、深い満足感が得られる。
内容については敢えて触れないことにする。他人事だと思って読めば、こいつ、厭な奴、とか、この人かわいそう、とか、ただそれだけの話なのだが、これは個人の話であると同時に社会の構造にも直結していること。そうなると、自分もまた加害者の一人であるかも知れないわけで、そこを考えるとひとことでは済まなくなるから。
そういう深い社会問題を提起していることがこの作品のひとつの意義ではあるのだけれど、ただそれを投げ出すのではなく、ちゃんとエンターテイメントに昇華している点がすごいと思うのだ。