鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「天国ニョーボ」(全4巻)

約5年前の作品。既に何度も読んでいるのだが、ふとしたきっかけで読み始めたら涙が止まらなくなってしまった。

元気ハツラツ、バイタリティの塊のようだった「ニョーボ」ことヨシエさんが亡くなられた(乳ガンからの転移性脳腫瘍)。その発症から最期までを描いた作品。

それほど長い作品ではないが、テーマが二転三転している印象を受ける。

最初は、死んだニョーボを天国から呼び出し、妄想を交えて描くというギャグ漫画だった。一巻が終わる頃から闘病記になるが、しばらくは標準医療を受けることを半ば強要し、民間療法を選択もしくは併用しようとする患者は冷たく見放す(ようにしか見えない)医師らの態度への疑問や批判が中心だ。三巻くらいから、どんどん悪化していく患者の様子と必死に看護する家族との交流が描かれる。

最初のギャグは正直なところあまり面白くない。標準医療への批判は、それはそれで大事なことかも知れないが、漫画というより演説を聞かされるような気になり、これも少々辟易する。が、家族の交流がメインになって俄然、真価を発揮する。面白いという言葉は適切ではないだろうが、のめり込んでしまう。始めからこのスタイルで描いてほしかった。

正直、ここまで献身的に介護できるものかと驚くばかりである。作者の必死さはよく伝わってくるし、ヨシエさんがそれを受け止め、自分がいなくなったあともちゃんと仕事をするように励まし、作者に感謝するところは号泣ものである。

昔からモーニングは購読していたので、須賀原洋行が登場した時から知っている。「気分は形而上」でデビューしたが、当初は話が理屈っぽい上にキャラクターが気持ち悪く、自分は好きではなかった。が、ヨシエさんをモデルにした「実在OL」が登場してから抜群に面白くなった。明るくて突き抜けたキャラクターが魅力的だった。「実在OK特集」が何度も組まれたから、人気も急上昇したはずだ。

その後、彼女を主人公にしたエッセイ漫画「よしえサン」が安定した人気を獲得。タイトルや掲載誌を変えつつも断続的に長く続き、漫画家としての地位やスタイルを確保することになった(「天国ニョーボ」は「よしえサン」シリーズの最終章だとも言える)。そのような意味では、漫画家としてもヨシエさんの存在に負うところが大きかったのは間違いない。実際、「天国ニョーボ」が完結したあとは作品を発表している様子がない。

ご本人はいなくなってしまったが、漫画の中では永久に生き続けている。須賀原洋行はヨシエさんに永遠の命を吹き込むためにこの世に使わされたのか、と思う。



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