鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「妖精配給会社」

オリジナルは1964年発行。新潮文庫版は1976年初版。35編。全作品をトータルに云々は難しいので、印象に残ったいくつかの作品について触れる。

「暗示」エフ博士はかなり早合点でせっかちで思い込みが激しい。これは星新一の作品に登場する多くの人物に共通する性質だ。「博士は長い間の経験で、(患者に)その先を話させるこつを身につけた」とあるが、全然青年に話をさせず、一方的にまくしたてている。青年が「生きているような気がしない」と言った時に、それはどういう意味か、どういうきっかけでそう思うようになったのか、詳しく訊いていれば悲劇は防げた。

「アフターサービス」これも同じ。エム氏は早合点でせっかちで思い込みが激しい。だからこそ、トラブルを招いてしまい、それが話になるわけだが。もっともこれは文章の(あるいは、話の展開の)リズムがよく、繰り返し読む気にさせる。

「沈滞の時代」一片の学術論文を、何の裏付けも取らずに妄信するほど、人類の知性が損なわれているとは考えにくいが、もしかしたら現代も同じなのかも知れない。マスクには意味がない、ワクチンで却って感染リスクが高まるなどの説がまことしやかに語られているのを見ていると。

「三角関係」多重人格の話。いまとなってはありきたりだが、発端は星新一だろうか?

「妖精配給会社」いろいろな風刺が込められていて、いろいろな解釈が可能であろうが、シンプルには、自分を絶対的に信じ、慕ってくれる存在があったとしたら、人間は、それによって自信を得、エネルギーやモチベーションが高まっていくのではないだろうか? ダメ人間になっていく、というのはちょっと違うと思う。

「ごきげん保険」お金を払って自分用の太鼓持ちを雇っている(ようなものですね)。表題作と似ているが、こちらの方がありそうだ。ここではご機嫌を取らせるためには金が必要なので、働かないわけにはいかない、ということか。



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