- 奥灘幾多「ゆるやかな自殺」1(ナンバーナイン)
2020年9月18日刊。表紙・扉などを含めて36ページの薄い本。
男は自殺しようと部屋で首を吊るが、紐が切れて失敗。家を出て町をさまよい歩くうち、走って来るバスを見て、あのバスに轢かれれば死ぬと思い飛び出そうとしたところを、通りすがりの女に止められる。
女は言う。私とおいしいものを食べに行きませんか。女は食べ物で100万円使い切りたいのだという。そして二人で生牡蠣を食べに行くが、10万円にも達しない。
男と別れた女は残ったお金を道路にばら撒くと、首を吊る……
いろいろと救いのない話だが、結末は本当に救いがない。すごーくいい話だが切ない。
ちょっとだけ残念だったのは、贅沢をする描写が贅沢に見えなかったことだ。一人5万円の生牡蠣のコース料理なら、もっといろいろと細々した料理が出てくるはず。牡蠣だけがでーんと出てくることはない。また、一人5万円の料理を出す店に、タンクトップの女やTシャツに下駄履きの男が入店を許されることもないような気がする。
100万円で贅沢をするなら、風呂に入り、服(タキシード&ドレス)を買い、美容院に行き、それから食事に行って、高級ホテルに泊まる、そのくらいがセットかなと思う。食事も、本当にいい(高級な)店はGoogleさんに訊くよりホテルのコンシェルジェに訊いた方がいい。
もっとも、「俺の空」の安田一平のような贅沢がしたいわけではなく、彼らの考える、彼らの手が届く精一杯の贅沢なのだから、これでいいのかも知れない。