鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「不思議の国の千一夜」1~3

  • 曽祢まさこ「不思議の国の千一夜」1, 2, 3(なかよしコミックス)

「なかよしデラックス」1980年1月号より掲載された作品。

昔から気になっていた作品だが、全11巻のため、全巻揃えるのも大変だなあと敬遠していた。実は3巻でいったん完結し、4巻は番外編、5巻以降は続編だと知り、それならまず3巻まで買えばいいということになった。

「王子」のセブランは、王位を狙う叔父・ダロスの陰謀にうんざりし、城を出てヘンデク・アトラタンという神馬を探す旅に出るファンタジー。幼少の頃から鍛えた剣の腕と度胸、そして美貌を兼ね備えた王子と神馬ヘンデクの冒険譚は、40年以上も前の作品だから、異世界転生もないしスライムもゴブリンも出て来ないが、とてもわくわくハラハラする。

子どもの頃に読んだ童話や神話に出てくる話をベースにひとひねりし、さらにユーモアと自己ツッコミが満載の楽しい物語である。

「王子」とカッコ書きにしたが、セブランは女である。王様が妃に、世継ぎたる男の子を産め、女だったら殺すと言ったため、実際に生まれたのは女だったのを男と偽って育てたのだ。それが理由なのか、もともとの素養か、セブランの(今風に言うならば)性自認は男であり、カッコいい男を見てもなんとも思わない代わりに可愛い女を見るとときめいてしまうのだ。

見かけは男だが身体は女、しかし心は男、という人物を主人公にするのだから、相当に先進的である。最後は心に合わせて性転換をして男の身体を手に入れ、旅先で知り合った女性を妻とし、城へ戻って王位を継ぐところで3巻が終わる。

のちの曽祢まさこに見られるような憂いと哀愁成分こそ薄めだが、傑作と言える。



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