鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「長い長いお医者さんの話」

短編九編所収。子どもの頃に読んで面白いと思い、のちに岩波少年文庫版を買って持っているが、過日、図書館で見かけたら分厚い。自分の持っている本にはない話が追加された新版のようだ。中野好夫はとっくに亡くなられている(1985年没)のに、不思議だったが、こういう経緯らしい。

1941年、「王女様と小猫の話」という単行本を刊行した。1952年、ここから表題作を除いた七編を「長い長いお医者さんの話」として岩波少年文庫から刊行。1962年、「王女さまと小ネコの話」と「山賊の話」を追加した九編を愛蔵版として刊行。2000年、岩波少年文庫版を愛蔵版と同じ内容に変更した。

「王女さまと小ネコの話」は100ページ以上もあり、全作品の中で圧倒的に長いから、本を作る時の尺の問題で入れたり出したりせざるを得なかったのだろう。今回初めて読んだが、たいへん面白いから、これの含まれた作品集が決定版となるのは喜ばしい。

チャペックの作品は、ひとつの作品の中に掌編が入れ子のように入ってくるところに特徴がある。表題作「長い長いお医者さんの話」では、魔法使いのマジャーシュが病気になって医者を呼び集めるのだが、生死の境をさまよっているマジャーシュを前にして、医者がそれぞれ「こんな患者がいてね」という話を話し始める。その呑気な態度も滑稽だが、ひとつひとつの話も趣向が凝らしてあり面白い。50ページにも満たない短い話なのだが、広い広い世界を堪能した気分になる。

中野好夫の訳がとてもよい。翻訳調を感じさせないこなれた日本語になっているのもすごいが、使われている言葉が、令和の世の今から見ても、不愉快な言葉がほとんどない。品格を感じさせる。

小学3~4年生向けになっているけれど、このような作品を子どもだけに読ませておくのはもったいない。

収録作品

  • 長い長いお医者さんの話
  • 郵便屋さんの話
  • カッパの話
  • 小鳥と天使のたまごの話
  • 長い長いおまわりさんの話
  • 犬と妖精の話
  • 宿なしルンペンくんの話
  • 山賊の話(新版で追加)
  • 王女さまと小ネコの話(新版で追加)



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