単行本は2007年5月1日刊。文庫本は2010年1月28日刊。連作短編集。念のために宣言しておくが、ミステリーである。蔵書の再読。
アメリカから日本へやってきた留学生、リリー・メイスが語り部となって、日本の不思議な習慣を紹介する話なのだが、それは我々日本人にとっても奇想天外な話である。
たとえば「人柱」。人柱とは「築城・架橋・堤防工事などの完成を祈って、神へ供える生贄いけにえとするために、人を土中や水底に埋めること。また、その埋められた人」(コトバンク)。過去の忌まわしい風習であり、人道的観点から、現代では許されることではない……と思いきや、作品の中では現代でも普通に行なわれている。そんな、と思いきや、人柱になる人は、工事の基礎部分に作られる小さな部屋に入るだけで、工事が終われば出て来れる。部屋には新鮮な空気が送り込まれ、水も食料もふんだんに用意されるが、外界との連絡は完全に絶たれ、娯楽用品は一切持ち込めない。風呂もない。その代わり報酬はよく、普通の人が一生かかって稼ぐ金額を数年で得ることができるという。
リリーがホームステイしている家の親類に人柱職人の東郷直海がいることから、リリーは詳しい事情を知ることになる。
人柱を舞台に次々と事件を起きるのかと思ったら、これだけの設定をしておきながら、短編一遍で終わり。次は黒衣(くろご)、次はお歯黒……と、言葉だけはよく知っているけれど意味するところが我々(読者)とはかけ離れた文化をテーマにしていく。なんとも贅沢な展開だ。そこで起きた事件も、その解決も見事なのだが、何よりその奇妙な文化に惹かれる。
リリーと東郷の恋愛譚になっているのもよい.だんだん二人の距離が短くなっていくところは見もの。そして最後のオチが強烈だ。