鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「月魚」

単行本は2001年5月刊。文庫本は2004年5月25日刊。連作短編集三編収録、というか、長編(中編かな)一編に極短編二編というべきか。

古書店「無窮堂」を営む本田真志喜と古書の仕入れ業を営む瀬名垣太一の二人の物語。真志喜の父親はある事件を契機に家を出て行ってしまい、以後真志喜は祖父に育てられる。父親が出て行くきっかけを作ったのは瀬名垣。二人は不思議な友情と罪悪感と劣等意識で結ばれている。

ある地方の民家へ買い付けに行った瀬名垣と本田は、やはり古書店を営んでいた父親と邂逅する……

瀬名垣と本田の関係は、友情か愛か。幼なじみの女性は登場するが、母や祖母などは登場せず。基本的には女性不在の物語である。陳腐だが今風の表現を使えばBL小説ということになるか。

父が家を出たのは、自分の父(真志喜の祖父)に対する愛情や、真志喜に対する嫉妬や、仕事に対するプライドなどが複雑に混じり合っているのだろうが、素直に考えて成人前の子の育児を放棄するなど無責任極まりない、としか言いようがない。再会後も「俺を探してくれなかった、同じ古書業界にいるのだから、探せばすぐに見つかったはず」などと言い出すとは呆れるばかりの幼児性だ。

このタイプの小説には一定の約束事があるのだろうか? 普通の小説として読む限りでは、父親に限らず、キャラクター造形がどことなくずれている(人物がまともではない)ように思われる。

古書業界の内幕については「ビブリア古書堂の事件手帖」を読んでいたから、すんなりと入って行かれた。