- 南野海風(イラスト・磁石)「凶乱令嬢ニア・リストン」1(HJ文庫)
2020年9月30日刊。HJ小説大賞2021年前期受賞作。元は小説家になろう並びにアルファポリスで掲載されていたもの。
少女は死にかけていた。正確には、既に魂は召されたが、無理に肉体を一日でも生き延びさせるために、「その人物」の魂が入り込んだ。「その人物」は、前世で習得したと思われる「気」の力を使い、少女の身体を徐々に直し、ついには健康体に戻した。少女の名はニア・リストン。「その人物」はニアが生き返ったと信じる両親のため、自分に生を与えてくれたことに対する感謝のため、以後はニア・リストンとして生きることに決めた――
というのが物語の発端である。
割と話題になっている作品らしい。あちこちで目にして興味を引き、コミカライズされた作品をWebメディア「まんがUP!」で読んでいた。原作があることを知り、原作をはじめから読んでみた次第。
「その人物」の意識が芽生えてからニア・リストンとしての生を確立するまでの描写は原作の方が細かい。ここは荒唐無稽ではあるが、「そういうこと」として物語に入り込むためにはそれなりのリアリティが必要だ。原作を読んでようやく納得できた。
「その人物」が肉体の持ち主の名前や立場を周囲から教えてもらい、一から理解していく展開はなかなかうまい。それは読者に対する説明にもなっているからだ。
1巻は、リアが魔晶板と出会い、魔法映像(マジックビジョン)に出演することになり、「ニア・リストンの職業訪問」が人気シリーズになり、劇団氷結薔薇(アイスローズ)に誘われて芝居をし……と展開していく。ニアの両親が魔法映像の事業に多額の投資をしているため、それを回収させるべく、事業が軌道に乗るよう協力することを決めている。それが両親への恩返しだとニアは考えているのだ。
さて、氷結薔薇の若手女優・シャロがチンピラに絡まれたのをきっかけに、彼らを叩きのめす。捨て台詞を言う彼らに、二週間後に自分が来るから歓迎会を開くようニアは言う。芝居の本番が終わった翌日、彼らに会いに行く。暴力をふるうために。そして用心棒のアンゼルをはじめ、百人を超えるチンピラたちを制圧し、裏社会の組織を壊滅に追い込んだ。たった一人で、かすり傷も負わずに。
ニアの正体を知った次女のリノキスは、ニアに弟子入りする。
ニアは6歳になり、アルトワール学院の寮に入ることになった。
「その人物」の前世での名前や性別はわからない。年齢もわからないが、大人というよりもっと年を取っていたと思われる。武の達人というより、暴力を好む性格。「高校鉄拳伝タフ」に登場する鬼龍や「グラップラー刃牙」に登場する範馬勇次郎を彷彿させる凶悪な人物だが、外見は清楚な美少女というギャップが魅力。
無敵だった過去を考えると男だったと思われるが、女性に対してなんら性的な欲望を抱いておらず、女性の心理にも精通して女子として振る舞うことに何も違和感を持たせない点では女性だったのかとも思う。

