鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「終末のフール」

2006年3月単行本刊。文庫本は2009年6月30日刊。連作短編集。ひとつの長編とも読める。ただし、各話ごとに語り部は変わる。

小惑星が八年後に地球に衝突することがわかった。避ける方法はない。衝突すれば人類は滅ぶ。というアナウンスが五年前になされた。つまり、あと三年後に全員が死ぬ。

発表直後は少なからぬ人がパニックに陥り、各地で強奪・暴行事件が相次いだというが、騒いでも何も変わらないと皆が悟ったせいか、あるいは暴れたくなるような人は死んでしまったせいか、今は平和で、米をはじめ、食料品も一応は流通しているらしい。ビデオ屋も開いている。そういう状況下、仙台市の郊外で生きる人たちを描いた作品。

面白かった。伊坂幸太郎の本はあまり読んだ覚えはないが、古書店で目についたので買ってみた。正解だった。なかなか良い作品を書くではないか、他の作品も読んでみようかなと本棚を漁ったら、同じ本が既にあった。全く記憶にない……

人類が滅ぶというのは、どういう状況なんだろうな。パニック小説ではないから、その点はさらりとした触れられていないが、いろいろ想像してしまった。

ぶつかった時の衝撃波が地球全土を覆うようであれば人類は瞬時に滅ぶだろうが、そこまでではなかった場合、海に落ちれば超大規模な津波が世界中の海岸を襲う。この場合、内陸に住んでいる人たちは取り敢えずは大丈夫そうである。陸地に落ちれば大量の粉塵が舞い上がって地上を覆い、太陽光を遮断して地上は冷える。植物が育たなくなれば連鎖的にほとんどの生命体が死滅するだろうが、この場合は時差がありそうだ。津波にのまれたり、地面の裂け目に落ちて死ぬのはイヤだが、じわじわと飢えて死ぬのもイヤだなあ。

衝突前も、接近する段階で惑星の重力の影響を受けて地震が頻発したり、津波が起きたりするのかなあ。

もし小惑星が地球に衝突することが本当に判明した場合、しかるべき機関はそれを発表するだろうか。避ける方法がなければ世界中がパニックになるのは目に見えている。しかし、黙っているわけにもいかないだろうし、秘密にしていてもいつかは漏れるだろうし。本作でも、衝突の事実はもっと前にわかっていたが、発表するという決断をしたのが五年前だった、ということなのかも知れない。

初出一覧

タイトル 掲載誌 日付
終末のフール 小説すばる 2004年2月号
太陽のシール 小説すばる 2004年5月号
籠城のビール 小説すばる 2004年8月号
冬眠のガール 小説すばる 2004年11月号
鋼鉄のウール 小説すばる 2005年2月号
天体のヨール 小説すばる 2005年5月号
演劇のオール 小説すばる 2005年8月号
深海のポール 小説すばる 2005年11月号