2000年12月単行本刊。文庫本は2003年12月1日刊。第五回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作。伊坂幸太郎のデビュー作。蔵書の再読だが全く読んだ記憶がない。
なんともシュールな作品である。主人公の伊藤は、気づくと見知らぬ島にいた。そこは「荻島」という名だが、日本国からは忘れ去られた土地であり、江戸時代以来本土とも他国とも行き来がなく、いわば鎖国状態にあるという。その上無機質であるはずの案山子(優午)が喋る。喋るだけでなく未来を予言するという。
その優午が、伊藤が島に来た翌日に殺された。いや、単に壊されただけなのだが、島民にとっては誰よりも大切な人を「殺された」と同じことであり、深刻な事態となる。誰が、なぜ優午を「殺した」のか? また、未来を予知できるはずの優午が、なぜ自分が「殺される」ことがわからなかったのか?
たとえテレビやラジオが通じており、また毎日新聞や週刊誌などが配送されていても、他の地域と人的交流の少ないエリアは、言葉にせよ気風にせよ、独特のものが残る。まして実質的な鎖国状態が、150年といわず、10年続いたら、明らかに異質な世界になってしまうはずだ。しかし、服装や建物のデザイン、自動車やバイクの型式はわからないけれど、現代の日本と地続きに見える。
そもそもこれはミステリーなのか、いったいわれわれ読者は何に付き合わされているのか、終盤まで判然としないが、不思議とラストはカタルシスがある。
城山が静香をカタに嵌めようとする描写は吐き気がするほど気持ち悪かった。単に犯すだけではなく、徹底的に静香に屈辱を味わわせた上で命を取ろうとしていたから。それが阻止されたのは本当によかった。

