鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「マンボウ最後の名推理」

単行本は2003年2月10日刊。短編三作。

「にっぽん丸殺人事件」および「梅干し殺人事件」には北杜夫という自称・名探偵が登場し、事件の解決を試みるが、全く解決せず、自らの頭の悪さをさらけ出しただけで終わるという、まあユーモア小説。

これを読むと、株に手を出したことは、本当に作家・北杜夫を破壊したなあと改めて思う。株に手を出し、大損害を被っただけではない。せめてその時の体験を作品に生かしたいと思うのかも知れないが、晩年の作品には株に夢中になって他を顧みない登場人物がしばしば登場する。その迷惑ぶりにも辟易するが、もはやワンパターンで、北杜夫の作品世界を完全に壊したと思うのだ。あるいは、借金を返すべく、量産に励み、作品の質の低下を招いたのかも知れないが。

「赤ん坊泥棒」には北杜夫氏は登場せず、株の売買をする人もいない。普通のピカレスク小説。ミステリーではない。

書籍化されたのは、作品が発表されてから10年経ってから。なぜこんなにペースが遅かったのかは不明。雑誌掲載の出版社とも違う。人気作家でなければ、こんなものなのか。あとがきを書いているのは2002年12月、「もう二年前から、私は腰痛はひどくなり、しがない雑文も一、二枚書くともう痛くて寝室でしばらく休まないとあとが続けられない。もう仕事は無理」と綴っている。75歳。人はこうして年を取るのだ。

初出一覧

作品名 掲載誌 掲載号
にっぽん丸殺人事件 1993年1~3月号
梅干し殺人事件 週刊小説 1992年10月23日号
赤ん坊泥棒 週刊小説 1992年1月3日号



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