鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「ジャイアント台風」1~12(完結)

「週刊少年キング」1968年28号~1971年29号連載作品。梶原一騎高森朝雄)と辻なおきのペアは、同時期に、講談社の雑誌ではあるが、「タイガーマスク」も連載している(1968~1971年)。宣伝効果を狙ってのことだろうが、よくできたものだ。

実在の人物の一代記を(虚実取り交ぜて)描く、というのは梶原一騎にとって沢村忠が初めてかと思ったが、調べてみると本作の方が先である。プロレスにも、ジャイアント馬場にも、さほど興味はないのだが、文学史の勉強くらいのつもりで、全巻大人買いした。

面白くないことはなくて、それなりに夢中になって一気に読んだが、1巻ずつコメントするほどでもないから、まとめて記す。

キックの鬼」を読んだ時、これは「空手バカ一代」の原型だな、と思った。のちに「空手バカ一代」で結実するいくつかの手法の萌芽がそこかしこに感じられたのだ。本作では「空手バカ一代」を連想させるものはない。ただ、終盤で、ルー・テーズが来日した時に、馬場の空手チョップ対策として極真会館へ行き大山倍達に教えを乞うた、というくだりは噴飯ものだった。アントニオ猪木がアリ戦の前に極真に一日入門してローキックを教わったことはあるが(まあ、これも梶原一騎が言っているだけなので、創作の可能性もなくはないが)、いくらなんでもテーズの極真入門はないだろう。せっかくの人気作品になんとか大山倍達を登場させたいという、原作者の努力をいじらしく感じる。

プロレスには詳しくないから、どこまでが事実でどこまでが創作なのかはわからない。しかし、全体的な印象として、実在の人物ばかりを登場させて入るが、梶原一騎ワールドだなあと思う。力道山門下に入門して間もなく、両手両足を縛りつけられ部屋に閉じ込められ、蜂の巣を放り込まれる描写がある。全身を蜂に刺され、そこから必死の力を会得するという、梶原漫画にはよくある殺人特訓だが、一匹や二匹ならともかく、こんなに大量の蜂に全身をくまなく刺されたら死んでしまうだろう。

アメリカ遠征ではさらに荒唐無稽な話が次々に起きる。総じて、タイガーマスクは登場しないが、「タイガーマスク」の外伝のような印象を受ける。つまり、いかにも作り話だなあと思うのだ。

辻なおきは、筋肉隆々たる男性の体格を描くのはうまい。登場する人物はみな、いかにもプロレスラーという身体である。ただし「動き」が描けない。動作の途中の絵でも、止まっているように見えてしまう。数多くのプロレスの写真を参考に絵を描いて、写真のような絵になってしまったのかと邪推。また効果音が、たとえば空手チョップが決まった時の音が「スタン」とか「タタン」とかで、気が抜けてしまう。ただし、かなり残酷で悲惨なシーンのはずなのに、あまり悲惨に感じられず、この点はある意味では長所かとも思う。

原作者が作品中に登場していないのは好感が持てる。まだプロレス界に対する影響力はないから、登場させようがなかったか。


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*1:単行本の表紙には原作は梶原一騎とクレジットされているが、扉には高森朝雄とあり、発表当時は高森朝雄名義だったようなので、ここでは高森朝雄にしておく。

「僕たちは“宇宙兄弟”です」――「宇宙兄弟」40

毎週買っている「モーニング」だが、グラゼニは休載中だしOL進化論は載らないことが多いしカバチタレは終わってしまったし、もはや「確実に読む」作品は「宇宙兄弟」だけになってしまった。あ、「ハコヅメ」は今は読むな。つい最近まで読んでいなかったけど。まあ、それはそれとして。

連載のものをていねいに読んでいるから、単行本になったものを読んでも特に目新しいことはないのだが、あ、ここで終わるのか、というのはある。今回はその終わり方が良かった。

月でマクシム4のメンバーと会ったムッタは「We're space brothers.」と言う。そして「新しい兄弟たちを基地へ案内できますか?」というヒューストンからの指示に「It's a piece of cake!」と答える。40巻にわたるすべてが集約されたセリフだ。



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「キック魂」1~3(完結)

  • 梶原一騎、南波健二「キック魂(ガッツ)」1~3

Amazonの「おすすめ」機能がなければこの本の存在を知ることはなかっただろう。

キックの鬼」は「少年画報」の1969年2号~1971年8号に連載されたもの。本作は同じ少年画報社の「週刊少年キング」に、やはり1969年の16号~52号に連載された作品。画家は違うが(似ているが)、同じ原作者により同じ人物を描いた作品が、同じ時期に、同じ出版社の雑誌に掲載されるというのは、ちょっと想像がつかない。

そこまで沢村に興味があるわけではないのだが、気になるので(全3巻と短かったこともあって)購入してみた。

描かれるエピソードはほぼ同じ。週刊連載だから本作の方が先行したと思われ、とすると、本作のエピソードをもう一度ていねいに描き直したのが「キックの鬼」ということになるのか?

一か所、「キックの鬼」で疑問に感じ本作で解消したことがあった。それは、沢村が当初東洋ミドル級チャンピオンだったのは、選手層が薄く階級はライト、ミドル、ヘビーの三階級しかなかったから。のちに7階級が制定され、沢村はライト級のチャンピオンとなった、という説明があった。これは大切だ。

キックの鬼」ともう一つ違う点、それは作者自身が顔を出していることである。出版社の人と一緒に食事をして時間が過ぎてしまい、あわててタクシーで上野に向かったエピソードは「キックの鬼」「キック魂」双方に出てくる。取材するのは当然だが、取材しているところを作品に取り込むことは、普通はしない。ただしこの時の梶原一騎は one of them で、どれが梶原だかよくわからない。つまり目立たないように描かれていた。「キック魂」ではこの時とは別に、初めて沢村に会った時のことが描かれており、この時は梶原一騎一人で、大きく、目立つように描かれている。

こうした自己顕示欲の塊は梶原一騎特有のものである。ただし本作においては、顔は出ているが、話を聞くだけで、それ以上の関わりを持とうとはしていない。持ちたいと思ってもできなかっただろうけど。

連日の試合で疲れ切り、思わぬ敗北を喫した試合から立ち直るところで話は終わる。同じ話を並行して書くのが大変だったのか、人気がなかったのか、ちょっと打ち切りっぽい印象を受ける。

南波健二は今回初めて名前を耳にしたし、他の作品は知らない。しかし貸本屋時代からの生き残りで、それなりの人気作家だった(時代もあった)ようだ。

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キックの鬼」と同じエピソードでも、読者層の違いを考慮し描き方を変えていたという。僕はそこまでは感じなかったが、そういうことはあるかも知れない。


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「キックの鬼」6(完結)

5巻の後半から、タイでは打倒沢村を本気で考え、プロレスラーのキングコングを招聘し、ルール違反にならないプロレスの殺し技の修得に励む話が約一巻分にわたって描かれる。このあたりはかなり嘘くさい。

当時、投げ技を使うタイ国選手がいたのかどうか、僕は事実は知らない。しかし、タイ人がタイ式に誇りを持つのならば、タイ式の技に磨きをかけるだろう。プロレス技で仮に沢村に勝ったところで、それはプロレスがキックに勝ったというだけで、タイ式が勝ったことにはならない、とタイ式の選手は思うと思うのだ。

それに、これは漫画を読んでの感想というより、僕の持っている総合的な知識からの判断だが、当時のタイ式にとって、別に沢村の存在は脅威でもないし、まして本気で打倒を誓う相手ではなかったと思う。ランキング入りするような一流選手は、長期遠征して自国で試合をしなければランクが下がってしまうから、好き好んで日本に行くとは思えない。一方、二流どころの選手にとっては、日本という市場ができたことでいい商売になったのではないか。

これまでの対戦相手は、ライト級チャンピオンとかミドル級チャンピオンとか紹介されたが、そのタイトルが虚偽でないとしても、まさかルンピニーやラジャムハラ認定のタイトルではないだろう。どこか小さな組織の認定する草タイトルではないか……

さて、最終章は沢村の100連続KO勝ちを収めたところで幕を閉じる。どんな世界でも、100連勝だって大変なのに、100連続KOは確かにすごい。

そして、栄光のうちに幕が降り、希望を持たせた終わり方になっているのも好感が持てる。梶原一騎のスポーツ漫画は、ハッピーエンドのものがひとつもない。「タイガーマスク」も「あしたのジョー」も「巨人の星」も、最後は主人公の破滅で終わる。*1事実に基づいた話だから勝手に主人公を殺したり再起不能にしたりできないからではあるが、こうした終わり方にほっとした。



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*1:柔道一直線」に到っては、最終章が単行本に収録されていない。

「キックの鬼」5

新必殺技「垂直2段げり」でポンニットを瞬殺するところから始まる。

日本で何度も戦ったモンコントーン・スイートクンに、勝ちはしたが肋骨を二本折られるという事件があり、長期入院。この間に山崎照朝、大沢昇が少しだけ紹介された。この二人はともに極真空手出身のキックボクサーで、山崎はキックをやっていた期間は短かったが、大沢は伝説的な強さを誇った――ということは、これも梶原一騎原作の格闘技作品の読者ならばおなじみのこと。もっとも、時系列的には、この作品が一番早かったかも知れないが……

ここでの記述によると、沢村のキック人気に目を付けた他のテレビ局がそれぞれ選手を養成し、試合を行ない、自局にて放映するということを始めたようだ。組織が違うから沢村が直接試合をすることはないが、視聴率争いが火ぶたを切った、と。

ジムが増え、選手が増えるのは、そのスポーツが栄える上ではむしろ望ましい。が、それならそれで野口がコミッショナーにでも収まり、互いに試合をして誰が真のチャンピオンかを決めましょう、となぜ働きかけなかったのか。それぞれが独自に興行を行なえば対戦相手もいつも同じになってしまい、すぐに飽きられよう。そもそもがテレビ局の視聴率争いから始まったことだから、それはできなかったのか。

しかし選手である沢村が、他の組織よりいい試合をしてファンに認めてもらわねば、と発想するのがわからない。試合をしたいとか、チャンピオンは俺だとか、そういう風には思わなかったのだろうか。まあ、物語的に、あまり触れたくない話題ではあったんだろう(でも極真系の人だから梶原一騎的には、どこかで名前を出しておきたかったんだろう)。

食べるものにも事欠く時代を経て、目黒駅前の一等地に新築のビルを建てるまでになる。

女性キャラ初登場。野口社長の姪っこの悦子。やたらジム所属の選手になれなれしく迫る。女性を描くのが苦手な梶原一騎なのだから、男性だけでもよかったと思うが、誰かから何か言われたのか。頑張って登場させてみました、といったところ。

対戦相手

  • ポンニット・キット・ヨーテン(続き)
  • ソムチャイ・シンチャイベル(タイ国ジュニアライト級ホープ
  • シンノンスイ・スイートクーン(タイ国ライト級)
  • アティサック・ムーグルヨーン
  • モンコントーン・スイートクン
  • シンチャイノイ・ローキットヨーン
  • アティサック・ムーグルヨーン
  • シンチャイノイ・ローキットヨーン
  • ソムチャイ・ルークパンチャマ
  • ロイロム・ソパードシン
  • ダウソン・バンカーロップ


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「キックの鬼」4

冒頭では数回を費やして沖縄空手との対決が描かれる。

それから、ジムメイトの結婚。

そして日本武道館におけるチャンピオンカーニバルの開催。

話に変化を持たせようという努力の跡がうかがえる。

チャンピオンカーニバルは、全階級のタイトルマッチ7試合を一夜のうちに行なうというもの。普通、こういう時は軽量級から順に試合を行ない、最重量級が最後に試合をすると相場が決まっているが、なぜか、フライ級、バンタム級、ミドル級、ヘビー級、ウエルター級、フェザー級、ライト級の順に行われたらしい。最も人気のある沢村の試合をトリにしたいということなのかも知れないが。そして東洋ミドル級チャンピオンだったはずの沢村は、ここでは東洋ライト級チャンピオンとされている。まあ、ライト級が正しいのだろう。だとしたら、ミドル級の選手と戦うなどというのは狂気の沙汰である。

後半に登場するソラコイ・シンコンカーは、以前沢村に負けたポンサク・ラートリットの弟だそうだが、漫画を読み返す限りポンサク・ラートリットなる選手とは戦っていない。ポンサワン・ラートリットのことだろうか?

シンコンカーの必殺技スクリューキックを見て、真空とびひざげりではない第二第三の必殺技が必要と悟り、特訓を始める。それが完成したらしいことを匂わせ、ポンニット・キット・ヨーテンとの試合が始まったところで終わり。前巻で開発した「フライング・ドロップまわしげり」が第二の必殺技ではなかったんかいな。

対戦相手

  • ポンサワン・ラートリット(タイ国ライト級3位)
  • ポンニット・キット・ヨーテン(タイ国ミドル級チャンピオン)←いつミドル級のチャンピオンになった!?
  • ポンサワン・ラートリット(再戦)
  • モンコントーン・スイートクン(タイ国ライト級チャンピオン)
  • ピッチャイ・ソーサートーン
  • ソラコイ・シンコンカー(タイ国フェザー級1位)
  • ポンニット・キット・ヨーテン


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「キックの鬼」3

国際式でもタイ式でも、ボクシングは体重制であり、違う階級の選手と戦うことはない。とはいえ、強くて敬遠される選手が、クラスの上の選手と戦うことはあるようだが、タイトルや順位には影響しない。エキシビジョンみたいなものだろう。

沢村忠は、写真で見る限りでは明らかに中量級(ライト級あたり)の選手と思えるが、いきなり東洋ミドル級のタイトルを与えられた(一巻)。タイ式ライト級チャンピオンを倒して東洋ミドル級チャンピオンを名乗るのも変な話である。

二巻では体重がわかるのはシート・ナノンリットのみでウエルター級。本巻では冒頭でタイ国ライト級チャンピオンと戦って引き分け、ラストでタイ国ミドル級チャンピオンと戦ってKO勝ちを収めるが、このタノンスク・キットヨーテンはポンチャイ・チャイスリアに「勝るとも劣らない選手」として紹介された。勝るとも劣らないどころか、ポンチャイはライト級でタノンスクはミドル級なのだから、ポンチャイはタノンスクに「歯が立たない」だろう。

キックボクシングの黎明期、一試合でも多く沢村に試合をさせ、一人でも多くの人に見てもらいたい、そのため体重などに構っていられない、相手をしてくれるなら誰でもいい、という事情はあったかも知れない。が、もし沢村がライト級程度の体格なら、ミドル級のチャンピオンと戦うのは無謀に近いし、相手が本気で沢村を敵視するとも思えない。体格が違えば攻略方法も変わってくるが、そうした点に一切触れていないのは奇妙である。

タノンスク・キットヨーテン戦では第二の必殺技「フライング・ドロップまわしげり」を初披露した。ただの飛び蹴りに見えるが……

対戦相手

  • ポンチャイ・チャイスリア(タイ国ライト級チャンピオン)〔引き分け〕
  • ジミー・ゲッツ
  • シンチャイ・ソー・タヤスク〔試合結果のみ〕
  • キットサノット・キット・ヨーテン〔試合結果のみ〕
  • スラサック・バーボーズ〔試合結果のみ〕
  • ポンニット・キット・ヨーテン〔試合結果のみ〕
  • ……
  • ポンニット(再戦)〔試合結果のみ〕
  • ポンニット(再々戦)〔試合結果のみ〕
  • ポンニット(再々々戦)〔試合結果のみ〕
  • カンワンプライ〔連勝記録が30でストップ〕
  • タノンペチンチャイ(タイ国フェザー級2位)〔試合結果のみ〕
  • ポンサロン(タイ国ライト級5位)〔試合結果のみ〕
  • タノンスク・キットヨーテン(タイ国ミドル級チャンピオン)


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