- ヨン・フォッセ、伊達朱実訳「朝と夕」(国書刊行会)
2024年8月26日刊。原著者は2023年のノーベル文学賞受賞者。
全体が二部に分かれている。といっても、第一部は24ページ、第二部117ページだから、主眼は第二部にある。
第一部ではある男性の誕生が描かれ、第二部ではその男性の死が描かれる。第二部は、年老いた男がいわゆるボケてきて、いろいろなことが分からなくなって混沌とした中に生きている様を描いているのかと思ったが、どうやら彼は既に死んでいて、そこから向こうの世界へ行くまでの間に先に死んだ妻や親友や姉のことを思い出しているということのようだ。
呟かれる内容は同じ内容が繰り返されたり、前後で食い違ったことが述べられたり、それがまさに心象風景をリアルにえがいているように感じられる。
このような文章は翻訳にさぞ苦労しただろうと思うが、美しい日本語が本作の素晴らしさを際立たせている。
最近、介護をしていた身近な人を亡くしたばかりだったので、文章が心に沁みた。