鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「朝と夕」

  • ヨン・フォッセ、伊達朱実訳「朝と夕」(国書刊行会

2024年8月26日刊。原著者は2023年のノーベル文学賞受賞者。

全体が二部に分かれている。といっても、第一部は24ページ、第二部117ページだから、主眼は第二部にある。

第一部ではある男性の誕生が描かれ、第二部ではその男性の死が描かれる。第二部は、年老いた男がいわゆるボケてきて、いろいろなことが分からなくなって混沌とした中に生きている様を描いているのかと思ったが、どうやら彼は既に死んでいて、そこから向こうの世界へ行くまでの間に先に死んだ妻や親友や姉のことを思い出しているということのようだ。

呟かれる内容は同じ内容が繰り返されたり、前後で食い違ったことが述べられたり、それがまさに心象風景をリアルにえがいているように感じられる。

このような文章は翻訳にさぞ苦労しただろうと思うが、美しい日本語が本作の素晴らしさを際立たせている。

最近、介護をしていた身近な人を亡くしたばかりだったので、文章が心に沁みた。



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「鈴木ごっこ」

2015年6月10日刊。文庫書き下ろし。最近古書店で購入した(珍しく)紙の本。

2,500万円の借金を背負い、返す当てのない男女四人が集められ、一年間、鈴木になって暮らせと貸主に命じられる。周囲にバレずに家族として一年暮らせば、借金をチャラにしてやると。なぜそれで借金が返せるのか……

当初ユーモアミステリーかと思って読み始めたが、ラストが恐ろしい展開だった。



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「超高速! 参勤交代」

単行本は2013年9月刊。文庫本は2015年4月15日刊。蔵書の再読。

これはよく覚えている。覚えているのは小説の方ではなく、三度も見た映画の方だが。

映画と違い、内藤政醇は最後は上様からたっぷり金子をいただいたようなので、よかった。

「怪盗紳士」

単行本は1958年刊。自分らの世代の人間が少年少女時代に夢中になって読んだルパンのシリーズは本書のはずである。今になってkindleで読めるのはありがたい。

ルパンものの第一作。短編集。

NHKの「Enjoy Simple English」に「遅かりしシャーロック・ホームズ」が登場したため、文意をつかむため元の小説を読んでみようかと買い求めた。

50年ぶりくらいで読み返したことになるが、どれも覚えのある話である。ただ、訳文はいただけない。ジュブナイルだから意図的にそうなっているのだろうが、表現が大げさ過ぎる。また、これは今回確認してわかったのだが、本作は本来9編収録されているはずだが、この本には6編しか収録されていない。

大人向けに普通に訳されたものを改めて読んでみたいものだ。



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「温かい手」

単行本は2007年12月刊。文庫本は2010年5月14日刊。連作短編。蔵書の再読のはずだが読んだ記憶がない。石持作品をつんどくにするはずがないから、忘れたということだろう。おかげで衝撃のエンディングもちゃんと衝撃を受けた。

石持浅海は、「人柱はミイラと出会う」や「BG、あるいは死せるカイニス」など、現実にはあり得ない文化・風習や生物が存在する世界を描いたことがあるが、本作ではついに宇宙人が登場。宇宙人ではなく、地球で生まれた種なのかも知れないけど。

この生物は人間の生命力をエネルギーにしている。意図的に人間のエネルギーを急激かつ大量に吸えば死に至らしめることも簡単にできるが、ゆっくり優しく吸えば余剰カロリーを消費してもらえるわけで、人間の側にもメリットはある。相手が自分の身体に触れ、そのように吸っている時、その手は温かく感じるという。

余剰カロリーの消費だけでなく、興奮や動揺している時に少しこれをしてもらうと、冷静になれるという側面もある。そのために登場人物は目の前で殺人事件が起きても慌てず騒がず、冷静沈着に行動できるというわけ。

それにしても最終話はこういう展開になるとはね。「やられた」としか言いようがない。そして、とても温かい気持ちになるのだった。

なお、驚くべきことに、Amazonで本書が見つからない。マーケット・プレイスにも取り扱いがない。だからさっさと電子化しろというのだ!



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「訪問者ぶたぶた」

2008年12月20日刊。文庫書き下ろし。「神様が来た!」「伝説のホスト」「気まずい時間」「ふたりの夜」「冬の庭園」所収。連作短編集(だと自分は思うのだが、作者はあとがきで「連作短編ではない」と書いている。それぞれの話はつながっていない。ただしすべてに「山崎ぶたぶた」というぬいぐるみが登場する。私はこれで「連作」の要件を満たしていると思う)。

蔵書の再読。ぶたぶたシリーズは一時期好きで、何冊も持っているはず。発掘されたのはこの一冊だけだが。久しぶりに「個々の話の細部までは覚えていないが、買ったことも、読んだことも覚えている蔵書」だ。

それにしても、なんて心の温まる話なのだろう! 作者が「実際に描くのはぶたぶたと出会う人間たち」と書いていて、すとんと腑に落ちた。そうか、これはぶたぶたの話ではないのだ。こういう人がいる、ああいう人がいる、ということを描いているのだ。



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「ピアノ・サンド」

単行本は2003年12月1日刊。文庫本は2006年11月15日刊。

蔵書の再読と言いたいところだが、蔵書ではあるのだが読んだ記憶が全くない。つんどくも確かに多いけど、新刊で買っておいて、しかも、いかにも(タイトルや装丁が)自分が買いそうな本なのに、全く読まないなどということがあるだろうか。買って20年経っていない。いくらなんでも読んだら何かしら記憶に残りそうだがまるっと忘れてしまったのだろうか。

「ピアノ・サンド」「ブラック・ジャム」「方南町の空」の三編収録。「方南町の空」はあとがきとなっているが、これはこれで一編の掌編を読んでいるような内容なので、ここでは三編としておく。

「ピアノ・サンド」「ブラック・ジャム」は大人の女性の恋が描かれる。繊細な心理の描きようはとてもよい。しかし、どちらの人物にも、もう少し男を見る目を養うよう忠告したい。ダメンズの素質がある。



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