鞄に二冊

少しでも空き時間ができると、本が読みたくなる。

「最高のコーチは教えない。」

  • 吉井理人「最高のコーチは教えない。」(ディスカバー携書)

2021年12月23日刊。恐らく最初は2018年10月か11月に単行本が出ている。本書はそれが新書化されたもの。従って内容は2018年のオフシーズン時のものとなっている。吉井が日本ハムファイターズのコーチを辞めたところ。千葉ロッテマリーンズのコーチに就任する前だ。

書店へ行って珍しくスポーツコーナーを見たら、本書が平積みになっていた。そのため、最近出た本かと思い、思わず購入したが、読んでみたら結構古い本だった。

吉井が関わって来た選手たちが、吉井の目からどのように見えていたか、それが吉井がコーチしてどのように変わったのか、具体例がいろいろ読めるかと思ったが、個々人の話はほとんど触れられていない。また、昨年は監督一年目で、バファローズの連覇は阻めなかったものの、二位はまずまずの成績で、その辺りの話も知りたかったが、上述の通り書かれた時代はそれよりずっと前であり、マリーンズの話は全く出てこない。

吉井のコーチング術が優れていることは以前から評判であった。それが体系的に書かれているのが本書である。その内容はスポーツ誌などで紹介されることもあったし、本人のインタビュー記事も読んだことがあり、さほどの目新しさはないが、人を指導したりまとめたりする立場の人は大いに参考になると思われる。

ただ、二言目には「サラリーマンの場合は……」と言及するのは余計なお世話だと思った。

吉井は、日本プロ野球、あるいはメジャーリーグでの体験をベースに、野球に関するコーチングを書けばよかった。会社勤めをしたことがないのに一般企業の例を出すのは不適切である。野球の話を読んで、そこから会社においてはとか、子育てにも応用できるとか考えるのは読者の役割だ。

これは想像だが、著者自身が世の中一般に通じるコーチングの本にしようと意気込んだのではなく、そもそもこの本は著者自身が手書きで、あるいはワープロで一から書いたのではなく、ライターがまとめたものではないかと思うのだが、出版社の意向を受けたライターが勝手に付け加えた部分なのではないか。



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「タイムスリップ・コレクター」

  • 根本尚「タイムスリップ・コレクター」(札幌の六畳一間)

2023年8月27日刊。表紙を含め89ページ。古書編・音楽編を所収。初出は、古書編が2016年5月5日(コミティア116)、音楽編が2016年10月23日(コミティア118)。

その時代にはごく普通に手に入ったが、今となっては入手は極めて困難なもの、というのはたくさんある。あの時のアレが今見たい、ほしい、という気持ちは、年を経た人間であれば、誰でも多かれ少なかれ持っているのではないだろうか。ましてコレクターなら。

そんな思いを叶えてくれる作品である。

タイムマシンが仮にあったとして、過去の世界へ行って買い物をするためには、当時のお金がなくてはならない。現在の紙幣は使えないのだ。古銭商などを回って集めるととんでもなく高価につく。といって、当時の社会へ行って働いて当時のお金を稼ぐのは現実的ではない。いつもここが引っかかっていたのだ。本作でも「古書編」では苦労しているが、「音楽編」では鮮やかに切り抜けている。

「音楽編」では、過去へ行って現代のヒット曲を自作と偽って歌う誘惑に駆られた主人公が、「ロックじゃない」と断念するところがカッコよかった。*1

自分だったら、あの本がほしい、あのレコードがほしかった、ということを思い出させてくれる。「食べ物編」とか「化粧品編」「昆虫採集編」など、構想はあるが描く機会を逸しているという。続編が出たら、ぜひ読みたい。



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*1:かわぐちかいじに「僕はビートルズ」という作品がある。ビートルズが誕生する直前の世界へ行き、ビートルズの曲を自作と偽って順に発表していくというもの(原作・藤井哲夫)。神をも恐れぬ行為とは、まさにこのことを言うのだろう。

「すくらっぷ・ブック」1

週刊「少年チャンピオン」1980年~1982年連載作品。秋田書店版(少年チャンピオンコミックス)は、恐らく1980年11月刊。kindle版(エンペラーズコミックス)は2018年3月23日刊。

当時「少年チャンピオン」は毎週読んでいたが、なんともさわやかな作品が登場したものだと思った。タッチはギャグ系で、描画はシンプルな線なのだが、なぜかすごく色気がある。それに惹かれて夢中で読んだ。

当時はあまり気にしていなかったが、現在読むとジェンダー的にいろいろ気になる。たとえば第一話、四人で音楽室にいるところへオバケ(?)が登場する。イチノが恋人である理美ちゃんを守ろうとせず、気絶してしまったことで責められると、なんで理美ちゃんが悲鳴をあげるのはよくて、イチノが気絶するのはダメなのか? と不思議に思う。

また、坂口が理美に惚れてしまい、猛烈なアプローチを始める。それを「理美ちゃんはイチノの恋人だから」と止めに入るのは晴ボンだ。坂口が理美に惚れるのは仕方がない。イチノではなく俺と付き合ってくれ、と告白するのもアリだ。それが厭なら理美が直接断わればいい。断わってもしつこくするようなら、そこで初めて他人の出番になるはず。

自分の体験的には、中学生くらいはもっとニュートラルというか全体的に中性に近くて、ここまで男の子が男らしく、女の子が女らしくを求められない時代だったと思うが、作中では理美はイチノのガールフレンドではなく「恋人」ということになっている。晴ボンと麻紀ちゃんも、ヒロと美晴、まさたかと唯などもそう。早々にキスをしているカップルもいたりして、かなり早熟な印象を受ける。

男は男らしく、女の子は女の子らしく、そういう魅力を追求すると、ジェンダー問題とかち合うなぁと思う。

それはそれとして、自分は麻紀ちゃんが好きだ。当時も好きだったが、今見ても魅力的だと思う。こういう子と一度付き合ってみたかったな。



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「今日のさんぽんた」8(新刊)

2024年3月12日刊。発売日に即購入。

相変わらず面白い。ほのぼのとした面白さもあるが、思わず声を出して笑ってしまう爆発力の強さもある。

りえ子は大学生になっても、単位を落としそうになったり、アルバイトの日を忘れてドタキャンしてしまったり、相変わらずな日々を過ごしている。そして1巻の第一話であれほど悲愴な別れをしたにも関わらず、頻繁に帰省し、ポン太を散歩に連れて行っているようだ。

「精霊紀行」

小学館版の単行本は、上1984年12月1日刊、下1985年1月1日刊。kindle版はぶんか社発行で上下とも2016年8月5日刊。初期短編集。奥付がなく初出の記載がないが、下巻の最後に収録された「まゆ」以外は「精霊紀行」というサブタイトルで1979年~1983年ごろに「別冊ビッグコミック」等に散発で発表されたものと思われる。

たがみよしひさと初めて出会ったのは「別冊ビッグコミック」で、二冊続けて「ELF」「合掌」が掲載されていた。

ゴルゴ13」は小学館の「ビッグコミック」誌の看板作品だが、単行本はなぜかリイド社から発行されている。どういう契約になっているのか知らないが、恐らくはその折衷案として、単行本の発行前に、3~4回分がまとめて「ビッグコミック増刊」ないし「別冊ビックコミック」として、雑誌の形態で発売される。単行本より安いため、自分はよくこれを買っていた。そこには「ゴルゴ13」以外の作品も2~3掲載されるのが常だった。

ビッグコミック」誌は老舗の漫画誌で、「ゴルゴ13」のほか、手塚治虫ちばてつや石ノ森章太郎白土三平青柳裕介等々、大御所の作品が目白押しであり、若手が入り込む隙はあまりなかった。その代わりに増刊や別冊に枠を設けていたのか、と考えている。

そこに「ELF」「合掌」があったのだ。これほどの作家が、なんでこんなところで描いているのか? なぜ自分はこの人をこれまで知らなかったのか? 他にどんな作品を描いているのか? 登場する女性はどれも美人で可愛くて色気があって魅力的。男性はややキザだがこちらもカッコいい。線が細くてきれい。建物や乗り物は緻密で物語を支えている。絵はモノクロだが、白い色の使い方が抜群にいい。雪を描かせたらたがみよしひさの右に出る作家はいないのでは、と思わせる。ストーリーはかなり複雑なので、一度ではすんなり理解できないところもあるが、だからこそ二度、三度と読み返す。読み返すたびに登場人物の魅力が伝わってくる。

「別冊ビッグコミック」は雑誌だから、書店にいつまでも置いてあるわけではない。あちこちを回って、どこかにたがみよしひさの作品が掲載されているのではと探したが、この二作以外に見つけることはできなかった。もっとも、ほどなく「ビッグコミック・スピリッツ」に「軽井沢シンドローム」を掲載して話題になり、あっという間にブレイクを果たすのだが、雪の話で始まったのは「やはり」と思った。

上巻に収録されているあたりは、まだ絵が発展途上で、のちを知る者にとってはいろいろ不満もあるが、瑞々しさはむしろ以降の作品よりも上かも知れない。「性描写が過激」などと言われたこともあるが、高校生だった当時も別に何とも思わなかったし、現在の目で見ればますますどうということはない。ただ、倫理的にどうかなと思う点はある。たとえば、幸子の部屋に「出る」という相談を受けた八神・宏子・西尾の三人が長野から東京へやってきて、今晩はこの部屋には泊まれないからホテルに部屋を取ることにして、宏子が「私と八神くんはダブルを取るから、西尾さんと幸子はツインでいいよね。別々の部屋を取るより安上がりだし」と、初対面の西尾と幸子を同じ部屋に泊めてしまうのは(そして西尾と幸子がそれをあっさり受け入れるのは)いかがなものかと思うが。



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「カタブツ」

2008年7月15日刊。単行本は2004年7月刊。短編集。 「バクのみた夢」 「袋のカンガルー」 「駅で待つ人」 「とっさの場合」 「マリッジブルー・マリングレー」 「無言電話の向こう側」 所収。

裏表紙には「ミステリー集」と書かれているが、ミステリーではないだろう。

蔵書の再読。「バクのみた夢」を読んだ時はEUREKA! と叫びそうになった。運命の人と出会った二人が紆余曲折を経て結ばれる、そんな短編があったけど、誰の、なんという話か全く覚えておらず、いつかもう一度読みたいと思ったことがあったのだ。ただし、それ以外の5編はほとんど覚えがない。

内容は多岐に亙る。 「バクのみた夢」と 「無言電話の向こう側」 はラブストーリーと言えなくもないが、全体としてはサスペンス色が強い。連作ではなく、共通する登場人物はいないが、主人公はちょっと偏ったところのなる、癖の強い人物であるという点は共通していると言えるか。「堅物」とも少し違うが。

共依存やストーカーなど、必ずしも後味のよくない作品もあるが、冒頭の「バクのみた夢」、中締めの「とっさの場合」 、ラストを飾る 「無言電話の向こう側」 は、途中はともあれ読後の印象はとてもよい。だから気持ちよく本を閉じられる。



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「霊能番長」

  • 根本尚「霊能番長」(札幌の六畳一間)

霊能番長

霊能番長

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2023年12月20日刊。表紙を含め100ページ。連作短編、全10話。もともとは同人誌用に描いたものを一冊にまとめたもの。

  • 1話~6話:2008年12月9日~2009年1月15日
  • 7話~9話:2010年2月27日~4月10日
  • 10話:2014年9月27日~10月22日

強い霊能力を持つ霊能番長と美少女・神路壱与(かみじ・いよ)のコンビが織りなす怪奇ドタバタコメディー。6話では番長と壱与がちょっといい感じになりかけるが、それ以上には発展しない。まあ、このくらいの感じがいろいろ想像を働かせる余地があってよい。



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